第三幕、御三家の矜持
どさくさに紛れて告白をしている後輩もいたけど、何も言うまい。桐椰くんは意外と素っ気なく「どーも」と返事をするだけだった。それでも女子の波が収まることはなく、漸くちょっと空いたと思えば今度は男子が「桐椰応援してるぜ!」「南波よりお前のほうがいいヤツだぞ!」なんて応援に来てた。そっちには普通の友達っぽく笑いながら返事をしていたので、桐椰くんは御三家以外にもちゃんと仲良い友達がいたんだな、なんて分かる。
休み時間も昼休みも、放課後までもがその調子で、桐椰くんとまともに会話ができるタイミングは中々やってこなかった。お陰で一人こそこそと第六西に向かい、いつも通りパソコンの前に座る月影くんを見て頬を膨らませる。
「生徒会に立候補するなんて知らなかった」
「言わないようにしていたからな」
「なんで? 別に他の人に言ったりしないよ?」
「君の面食らった顔を見たかったらしい、総が」
あのクソリーダー……。目を白黒させる私を見て笑う松隆くんの表情が容易に想像できた。
「……桐椰くんが髪染めたのって、生徒会に入るため?」
「そうだな。さすがに副会長が金髪はマズイだろうと」
「……本当に副会長になるんだ」
「当たり前だろう、悪ふざけで五分もの演説原稿に労力を割くわけがない」
「……なんで?」
静かに問えば、月影くんの静かな目が私を見つめ返した。第六西に入ってきてずっと立ちっぱなしの私に、月影くんは「とりあえず座ったらどうだ」なんて促す。でもあんまりその気にはならなかった。
「……なんで桐椰くん、副会長になんかなるの?」
「……知らんな。俺はアイツの原稿に多少口を出しただけだ。アイツがなぜそうしたいと思ったのかはアイツに訊けばいい」
「……私と鹿島くんのことが関係あるの?」
「面従腹背とでも言いたいのか? もしくは裏応外合か」
後者の四字熟語は意味を知らなかった。でも文脈的に面従腹背と大差ないんだろう。じっと月影くんを見つめていると、月影くんはくるりとパソコンに向き直る。
「遼の口からは、腐った生徒会を潰すには内側からだとしか聞いていない。それ以上の動機や真意があると思うなら本人に訊け。二度も言わせるな」
「……じゃあもう一個訊きたい」
「なんだ」
休み時間も昼休みも、放課後までもがその調子で、桐椰くんとまともに会話ができるタイミングは中々やってこなかった。お陰で一人こそこそと第六西に向かい、いつも通りパソコンの前に座る月影くんを見て頬を膨らませる。
「生徒会に立候補するなんて知らなかった」
「言わないようにしていたからな」
「なんで? 別に他の人に言ったりしないよ?」
「君の面食らった顔を見たかったらしい、総が」
あのクソリーダー……。目を白黒させる私を見て笑う松隆くんの表情が容易に想像できた。
「……桐椰くんが髪染めたのって、生徒会に入るため?」
「そうだな。さすがに副会長が金髪はマズイだろうと」
「……本当に副会長になるんだ」
「当たり前だろう、悪ふざけで五分もの演説原稿に労力を割くわけがない」
「……なんで?」
静かに問えば、月影くんの静かな目が私を見つめ返した。第六西に入ってきてずっと立ちっぱなしの私に、月影くんは「とりあえず座ったらどうだ」なんて促す。でもあんまりその気にはならなかった。
「……なんで桐椰くん、副会長になんかなるの?」
「……知らんな。俺はアイツの原稿に多少口を出しただけだ。アイツがなぜそうしたいと思ったのかはアイツに訊けばいい」
「……私と鹿島くんのことが関係あるの?」
「面従腹背とでも言いたいのか? もしくは裏応外合か」
後者の四字熟語は意味を知らなかった。でも文脈的に面従腹背と大差ないんだろう。じっと月影くんを見つめていると、月影くんはくるりとパソコンに向き直る。
「遼の口からは、腐った生徒会を潰すには内側からだとしか聞いていない。それ以上の動機や真意があると思うなら本人に訊け。二度も言わせるな」
「……じゃあもう一個訊きたい」
「なんだ」