第三幕、御三家の矜持
「……なんで桐椰くん、ずっと金髪にしてたの?」


 かつて桐椰くんは言った。染め直すのはお金がかかるから困りどころだ、と。それなのになぜ、今までの桐椰くんは金髪に拘っていたのだろう。


「さぁな」


 その質問にも、月影くんが答えようとする様子はない。


「言っているだろう、本人に訊けと。直接訊くことができないものならまだしも、そう他人から理由を訊きたがるな」


 意地悪だな、ツッキー。むっと頬を膨らませると、背後で扉が開いて「あれ、桜坂いたんだ」なんて楽しそうな声が聞こえた。振り向いたところにいるのは松隆くんだけだ。


「桐椰くんは?」

「応援女子に捕まってる」

「それなら応援演説した松隆くんも捕まってもよさそうなのに」

「アイツは人がいいからね」


 暗に自分は無視なりなんなりして逃げてきたと告げられた。桐椰くんは暫く来れないと踏んでいるのか、松隆くんはいつもの桐椰くんの定位置──ソファに座る。


「……なんで生徒会に入ること黙ってたの」

「入るのは遼だけだろ? 俺に言うのは筋違いもいいとこ」

「でも教えてくれてもよかったのに!」

「そうやって驚く顔が見たかったから」


 にやにやと、松隆くんは想像通りの意地悪な笑みを浮かべた。このクソリーダー、と私は再度悪態を吐く。


「選挙は一週間後だっけ」

「そう。要らない期間だよね、どうせ結果は分かってるようなもんだし」

「松隆くんのそういうナルシストなとこってどこからくるの?」

「立候補してるのは俺じゃないし、そもそも俺は結果は言ってないだろ」


 でもその口ぶりからして、桐椰くんが副会長になるって確信してるようにしか聞こえませんでしたよ。むむ、と顔をしかめれば「まぁ借り物競争といい、女子票も稼いだからね」なんて飄々とした声が答えた。なんだと。


「まさか……どういう風の吹き回しかと思ったら……!」

「そのまさか。理由もなく女子に優しくするわけないだろ?」


 本当に似非王子様だなこのリーダー……! もう何も言うまい。よろよろとソファに寄りこんだ。


「……それで、松隆くん的には生徒会役員選挙の調子というか、結果の予想はいかがですか」

「別に、番狂わせもなく、順当な結果になるんじゃない?」

「そんなこと言ったら桐椰くんが出てること自体が番狂わせなんじゃ……」

< 164 / 395 >

この作品をシェア

pagetop