第三幕、御三家の矜持
「はは、まぁそれは一理あるかもね」


 ふん、と松隆くんは肘掛けに肘をつき、不敵に笑う。


「この番狂わせで泣くヤツらの顔を見るのが楽しみだ」


 その笑みには、ゾッと背筋が震えた。

 結局、演説の日に桐椰くんは第六西にはやって来ず、次の日からも暇さえあれば誰かに囲まれて、まともに会話もできない有様。お陰で暫くは近寄れず、近寄りたい気にもならず、第六西に行っても松隆くんと月影くんしかおらず。


「……桐椰くんがいない」

「なに、俺達だけじゃ不満なの」


 ソファに寝転がって足を投げ出す。不満そうな私の声に返ってくるのは松隆くんの不満そうな声だ。月影くんは安定の無視、それどころか窓際に椅子を移動して、窓に背中を預けて読書中ときた。仕方なく目に入る天井をぼーっと眺めていると、ひょいとそこに松隆くんの顔が現れる。


「桜坂、寝転がるならベッドにしてよ。俺がソファに座るから」

「えー、やだ」

「なんで」

「ソファは私の定位置だもん」

「元は俺と遼の定位置だったのを桜坂が来たから譲ったんだけど」

「でも今は私の定位置だもん」

「……桜坂」


 頬を膨らませていると、松隆くんはそのまま頬杖をついた。


「言っとくけど、遼が副会長になったら放課後は基本これだよ。就任直後は特に忙しいだろうし」

「えー、やだ」

「だから俺と駿哉で何が不満なの」

「……お菓子が出てこない」


 なんとか絞り出した理由には「あ、そ」と無関心な声が降ってきた。そのまま松隆くんの顔は消えて、ギ、と椅子を引く音がする。私に動く気配がないせいでどうやら座るのは諦めたらしい。申し訳ない気持ちにもなりつつも起き上がる気にはならないし、ぐるんとうつ伏せになる。


「……生徒会の仕事って忙しいのかな」

「少なくとも鹿島がふらふら暇そうにしてるのは見たことないよね」


 確かに鹿島くんって学校じゃあんまり見かけないな。ってことは桐椰くんもこれから第六西に来なくなるのかな。まだ副会長になるって決まったわけじゃないけど、あんなに人気のある桐椰くんが落選するわけないんだよなぁ……、なんて考えていると「だが蝶乃はいつも暇そうじゃないか」なんて月影くんから失礼な評価が聞こえる。ただ、蝶乃さんはさておき、嬉しい話ではあるのでぴんっと起き上がる。


「本当? 副会長暇かな?」

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