第三幕、御三家の矜持
 呆れたような松隆くんの声にはムッとしたけれど、お陰で意味は理解した。自分を指名役員に選んでくれる人を指定役員に推せばいい。頭に浮かんだのは体育祭で女優かとツッコミを入れたくなるような演技をしてくれた人だ。蝶乃さんの親友なのか下僕なのかわからないけど、ああいう人は蝶乃さんを支持するんだろうな。


「でも指名役員以下は消えるわけだし、自分に利益のない人間を支持する必要はないよね」

「そんなに簡単にいくかなぁ。結局偉い人は変わらないわけだし」

「ま、もっと簡単にいえば、去年蝶乃に入れた生徒の中に、遼に入れるヤツがどれだけいるかって話さ」

「桐椰くん、生徒会の人からは嫌われてそう」

「まぁ、生徒会の男子からはね。少なくとも女子で遼を嫌いなヤツは少ないだろうし、一般生徒なら同性の人気も結構高いんじゃない、こうやって第六西に来る暇がないほど構われてるわけだし」

「……まぁそうですけど」

「そんなに納得できないなら、また賭けでもしとく?」

「もう絶対松隆くんと賭けごとはしないって決めたの。やんない」


 結果が出るのは来週。忙しいのかなんなのか知らないけど桐椰くんは捕まらなくて松隆くんとばかり帰る羽目になるし、これからもこんな日ばかりなんだと思うとなんだか憂鬱 だ。

 ……憂鬱。ん、と一人で小首を傾げる。憂鬱というのは何か違う気がする。でも、他にいまの気持ちを表すことのできる言葉も思いつかなかった。

 結局、桐椰くんが第六西に現れたのは金曜日の放課後だった。桐椰くんは放課後すぐにいなくなったから、来週の結果発表に備えて何かあるのかな、なんて思っていたのだけれど、第六西に行くとソファに寝転がっていた。今日は涼しいからか、クーラーはつけずに窓を開けていて、もふんとしたダークブラウンの髪が犬の尻尾のように揺れている。きっと私が来るまでは目を閉じていたんだろう、桐椰くんの目が不自然に私を見た。


「よお」

「……久しぶりに桐椰くんが第六西にいる」

「あー、うん、いい加減いいかなと思って。選挙の日まではだらだらする」


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