第三幕、御三家の矜持
 そして目を閉じた。髪を染め直した後の桐椰くんが第六西にいるのは、私が知る限り初めてで、妙な違和感がある。だからそんな桐椰くんが我が物顔でソファに寝転んでいるのが気に食わなくて、その頭を持っていた折り畳み傘でぱこんと軽く叩いた。そんなことをすれば胡乱な目を向けられるのは当然で。


「……なにすんだよ」

「どいてよ、私が座れないじゃん」

「はいはい……」


 体を起こした桐椰くんの隣に座れば、ソファには桐椰くんの体温が残っていた。でも真横を見ると……いるのはダークブラウンの髪の桐椰くん。こんなの桐椰くんじゃない。桐椰くんは金髪じゃないと桐椰くんじゃない。


「なんだよ」


 じろじろと見る──というか半ば睨み付けていたせいでムッと顔をしかめられた。そんな顔をしたいのは私だってそうだ。


「なんだよじゃないですよ桐椰くん。金髪やめるならもっと早く言ってくださいよ」

「なんで? 俺が金髪じゃなくなったらなんかあるの?」

「何かあるってわけじゃないけどさぁ、なんかこう、心の準備的なさぁ」


 選挙演説の日に月影くんに訊いて答えてもらえなかったことを訊こうか迷っていれば「あれ、遼がいる」なんて台詞と共に松隆くんがやってきたし、月影くんも続いて入ってきた。二人の前で訊いても答えてくれない可能性のほうが大きそうなのでやめておこう……。松隆くん達はそのまま「将来の副会長ってことは第六西出禁かな」「生徒会の括りだったらアウトなのかよ!?」「冗談だよ」「だが実際、副会長が第六西にいるというのはどうも字面に違和感があるな」なんてふざけた話をしている。

 ちらと、視線だけをもう一度桐椰くんに向けた。髪をダークブラウンにした桐椰くんはとても不良になんて見えない。この季節は暑くてパーカーも羽織ってないから、下手をしたらだらしなく制服を着ている人のほうが不良っぽく見えてしまうかもしれない。そういう人は大抵髪の色も明るいし。

 会話のひと段落した桐椰くんはきっと私の視線に気づいてるのに私を見なかった。普段なら照れくさそうに何らかのリアクションをとってくれてもよさそうだけれど、どうやら桐椰くん自身、自分の茶髪を見慣れないらしい。前髪をつまんでじーっと眺めている。


「……副会長になったら金髪に戻すとかしないの?」

「しねーよ、ちょっと詐欺っぽいだろ」

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