第三幕、御三家の矜持
 どういう、意味だろう。金髪だったときの桐椰くんしか知らない人と再会したかったとか? そうだとしたら、相手は優実のことかな。確か桐椰くんの初恋のタイミングって、金髪に染めた後だった気がするし。


「……もういいの?」

「……あぁ、もういい」


 もういいってことは、会えたからかな。だとしたら、やっぱり相手は優実なんだろうか。

 そう思うと、なんで優実と付き合わないの、なんて、また喧嘩の種を()いてしまいそうになる。


「……あと、副会長に立候補したのはなんで?」

「ん、クソみたいな生徒会どうにかしようと思ったら、副会長くらいならないと駄目だろ」


 月影くんが教えてくれたのと同じ答えだった。だからこそ、建前のような気がしてならない。


「……それだけ?」

「……どういう意味?」

「……他に理由はないの?」


 高校最後だから生徒会に入ってみたかったとか、心機一転して更生する気になったからそのアピールをしようと思ったとか、実は推薦が欲しいけどこのままじゃ内申点が悪すぎるからとか、理由はなんでもよかった。


「……なんでそう思うの?」

「だってなんか……結構突飛っていうか……御三家から生徒会役員に立候補する人が出るなんて思わなかったし……」


 生徒会に入る理由なんて、(よこしま)な理由であればあるほどよかった。そんな理由を、どうしてか求めていた。


「お前、鹿島に、生徒会に入らないかって言われてただろ」


 ……登校日の話だ。今になって一カ月近く前の話が出てくるとは思ってもみなかったのに、なぜか覚悟していたかのように、気持ちが揺さぶられる。


「夏休みのこともそうだけど、なんで鹿島がそこまでしてお前に拘るか分からなかったから。いっそ、生徒会に入ったら分かるのかなって思った。それも理由」


 そのまま、心臓ごと揺さぶられている気がした。そんな、他の人から見れば邪な理由を、舞台袖から出てきた桐椰くんを見たときから、どこかで分かっていたことに気づかされる。


「……そこまでしてくれなくてもいいのに」


 なんでそこまで、とは言わずにおいた。続きを促して、下手に返ってきても困るから。


「別に、俺がやりたいって思っただけ」


 それでも、その返事は、だから気にすんな、なんて言われてるようなものだ。


< 170 / 395 >

この作品をシェア

pagetop