第三幕、御三家の矜持

(三)貴方に見えた影

 生徒会役員選挙の選挙日、今までなんとなく目を向けずにいた渡り廊下のポスターを見た。ポスターが盗難被害に遭ったせいで、今は透明板のついた掲示板に貼られている。お陰で桐椰くんの写真は健在だった。ポスターに使う写真はなんでもいいらしく、鹿島くんは生徒会室の机について書類を見ている写真だし、蝶乃さんは浴衣美少女コンテストで優勝している写真だった。いつの間にどこの夏祭りでそんなことをしてきたんだろう。そして問題の桐椰くんはBCCのときの燕尾服、もちろん黒髪。そして非常にあざといことに、胸元をくつろげようとして襟に指をひっかけているときの写真だ。これ隠し撮りかな。桐椰くんがこの仕草で写真を撮らせたのなら最早アイデンティティの崩壊もいいとこだ。そして何よりなぜこの写真なのか。もしかして「ポスターのための写真は俺が用意するよ」なんて松隆くんの口車に乗せられたんじゃあるまいな。


「……似合わないなぁ」


 黒髪の桐椰くんを見ながら、はぁ、と溜息を吐いた。このポスターだけでなくて現実の桐椰くんも髪の色はダークブラウンになっちゃってるし。性格まで真面目だし、これだとただの優等生だ。

 そして名実ともに優等生の名を(ほしいまま)にしている鹿島くんはといえば……。生徒会長再当選が決まっているかのように生徒会室の机についたポスターなんだから、なんか嫌味があるというか。とはいえ、蝶乃さんみたいに学校行事と全く無関係な浴衣美女コンテストの写真というのも……。どちらにしても、あまり生徒会選挙に相応しくないポスターだな、と心の中で文句をつけていると、運悪く、校舎から出てくる本人が目に入った。

 うげ、と顔に嫌悪感を出して挨拶すれば、相手だって顔をしかめる。


「何かしら」

「いえ何でも」

「あたしのポスターに文句でもあるの?」

「察してくれるってことは文句のつけられそうなポスターだって自覚があるんですか?」

「本当、いつ会っても感じ悪いわね」


 それは否めない。でも蝶乃さんとの会話はいつだってお互いに売り言葉に買い言葉だと思っている。

 そのままこちらに歩み寄って来た蝶乃さんは私の前で立ち止まり、掲示板に視線を向けた。私と話すといつだって険悪ムードになるのに、いつだって蝶乃さんは私と話す機会を持とうとする。謎の行動だ。
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