第三幕、御三家の矜持
 そんなくだらない理由で見栄をはれば、「ふぅん、そう」と蝶乃さんは興味のなさそうな素振りを見せる。ただ、どう見ても、本心はその素振りの逆で、私が知っていることに動揺している内心が見え見えだった。


「あなたはどう思ったの? その理由を聞いて」

「別に、蝶乃さんに教えるほどの感慨はありませんでしたよ」


 鎌をかけるにしてはあまりにわざとらしく、下手くそな台詞だった。そんなことでボロを出すほど私は馬鹿じゃない。お陰で蝶乃さんはそわそわともどかしそうだ。


「そんなはずないんじゃない? だって生徒会は御三家の敵よ。まぁ桐椰くんは去年から私の指名役員候補だから、そういう意味では松隆くん達とは違うけど……」

「え、何言ってるの?」


 が、そこで予想外の台詞が飛び出てきて、あまりにも馴れ馴れしく聞き返してしまった。もちろん蝶乃さんは不快げに眉を寄せるけれど、そんな顔をしたいのは私のほうだ。


「指名役員候補って」

「あら、まだ生徒会ヒエラルキーが頭に入ってないのかしら。残念な頭の持ち主ね」

「私の疑問はそんなところにないんですけど、その可能性しか浮かばない蝶乃さんの頭は私よりも残念ですね」


 蝶乃さんのこめかみには青筋が浮かぶ。でもそんなことはどうでもいい、今はただ、蝶乃さんの発言の意図が──いつも分からないけれど──いつにも増して分からない。


「あぁなに、指名役員がなくなるってことを言いたいの? 言っとくけど、あれは明貴人のパフォーマンス、実現してるわけじゃないし、多分無理ね。大体、指名役員って名前じゃなくても、生徒会役員に補佐がつくのは有り得る話よ。希望役員以下がなくなるとしてもね」


 それなのに蝶乃さんに私の困惑は伝わらない。それどころか肩を竦めて説明口調にまで入っている。


「いや……そういう話じゃなくてですね……」

「まぁ、桐椰くんが副会長に当選したらそれもなくなるけど、私達がそのまま当選するから、その可能性はないわね」


 そしてそのまま斜め上の方向で話を進めている。お陰で思わず──憐れみを込めた目を向けてしまった。


「……蝶乃さんって、自分が桐椰くんの関心の対象外だってことに、気づいてないの?」

「は?」


 それに対する返事は、もちろん嫌悪感むき出しの低い声だった。


「何の話よ」

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