第三幕、御三家の矜持
「ローマは一日にして成らず、か……」
小さく呟くと、不意に有希恵が振り向いた。盛大なイメチェンを遂げたその顔はいい加減見慣れたとはいえ、未だに“有希恵感”がない。
「……なに?」
「……なんで桐椰くんが生徒会に?」
なんで誰も彼も私にそれを聞くんだろう……。御三家の企みだとでも思ってるのかな。そうだとしても、私が御三家の企みを知れる立場だと思ってるのかな。
「さぁ、桐椰くんがやりたいって思ったみたいだよ」
「……なんで隠すの?」
「そういうことは本人に訊けばいいじゃん。他人が勝手に話すのはマナー違反だよ」
本当は知らないだけだけれど、そもそも桐椰くんの立候補の理由を有希恵が知りたがることが疑問だ。別に有希恵には関係がないと思うのだけれど。
「……そうやって自分だけ御三家に守ってもらおうとするの、本当狡いよね」
「別に桐椰くんが副会長になるのと私とは関係ないんじゃないの」
プールの授業で言われたのと同じことだ。仮に私だけが御三家の恩恵を被っているとしても、それを有希恵に詰られる筋合いはない。
でも──有希恵が、私は目を逸らしておきたかったことを突き付けたのは本当だ。
自惚れかもしれない。自意識過剰かもしれない。でももし、桐椰くんが私のせいで副会長に立候補したんだとしたら……。
でもそれは、桐椰くん自身の口から聞かないと分からないことだ。
「……亜季ちゃんの狡いところだよね、そういうの。自分のこと卑下して、自分のために何かしてくれる人なんていません、だから関係ありませんみたいな顔してればいいって思ってる」
「……どういうこと?」
非難めいた口調に、思わず私の声もキツくなる。でも有希恵が表情を変えることはない。
「だってそうじゃん……一人だけ御三家に守ってもらってるくせに、そのありがたみを全然分かってない」
「……一応これでも感謝してるけど」
「だったらもっと態度を変えるべきじゃん」
「態度って、なんの態度?」
桐椰くんをからかうなんて生意気にもほどがある、とでも言うつもりかな、と冗談を口にしようとしたけれど、有希恵が口を開くほうが早かった。
小さく呟くと、不意に有希恵が振り向いた。盛大なイメチェンを遂げたその顔はいい加減見慣れたとはいえ、未だに“有希恵感”がない。
「……なに?」
「……なんで桐椰くんが生徒会に?」
なんで誰も彼も私にそれを聞くんだろう……。御三家の企みだとでも思ってるのかな。そうだとしても、私が御三家の企みを知れる立場だと思ってるのかな。
「さぁ、桐椰くんがやりたいって思ったみたいだよ」
「……なんで隠すの?」
「そういうことは本人に訊けばいいじゃん。他人が勝手に話すのはマナー違反だよ」
本当は知らないだけだけれど、そもそも桐椰くんの立候補の理由を有希恵が知りたがることが疑問だ。別に有希恵には関係がないと思うのだけれど。
「……そうやって自分だけ御三家に守ってもらおうとするの、本当狡いよね」
「別に桐椰くんが副会長になるのと私とは関係ないんじゃないの」
プールの授業で言われたのと同じことだ。仮に私だけが御三家の恩恵を被っているとしても、それを有希恵に詰られる筋合いはない。
でも──有希恵が、私は目を逸らしておきたかったことを突き付けたのは本当だ。
自惚れかもしれない。自意識過剰かもしれない。でももし、桐椰くんが私のせいで副会長に立候補したんだとしたら……。
でもそれは、桐椰くん自身の口から聞かないと分からないことだ。
「……亜季ちゃんの狡いところだよね、そういうの。自分のこと卑下して、自分のために何かしてくれる人なんていません、だから関係ありませんみたいな顔してればいいって思ってる」
「……どういうこと?」
非難めいた口調に、思わず私の声もキツくなる。でも有希恵が表情を変えることはない。
「だってそうじゃん……一人だけ御三家に守ってもらってるくせに、そのありがたみを全然分かってない」
「……一応これでも感謝してるけど」
「だったらもっと態度を変えるべきじゃん」
「態度って、なんの態度?」
桐椰くんをからかうなんて生意気にもほどがある、とでも言うつもりかな、と冗談を口にしようとしたけれど、有希恵が口を開くほうが早かった。