第三幕、御三家の矜持
「だって、元カレの菊池くんって、危ない人なんでしょ? そんな人とずるずる付き合ってたら御三家だって巻き込んじゃうし、そのせいで本当に桐椰くん達巻き込んだって聞いたし。守ってもらってる自覚持てばいいじゃん」


 そしてその台詞に、心臓が凍りつく。


「……なんのこと言ってるのか、分かんないけど」


 辛うじて平静を保っている声が、動揺を抑えきれずに固くなる。


「……しらばっくれて、反省してないんだ」

「……だって、その話が本当だとしても有希恵が知ってるはずないから」

「別に、知らないはずなんて言いきれないよ」


 体育祭のときと同じだ。なぜか雅の事件のことを知っていた蝶乃さんとその指名役員。指名役員のあの人は知っている理由を有耶無耶にしたし、蝶乃さんも知ってて当たり前みたいな顔をして誤魔化した。だから結局、あの事件のことが噂として知られているかどうかは分からないままだ。女子が何人かいる場で話題にされたせいで、体育祭以降に噂されているのを聞いても、発信源があの二人とは断定できない。

 それでも。


「だって私、蝶乃さんと藤木さんの無名役員やってたんだよ。あの二人の話してることくらい知ってる……御三家のこと一人占めしてるくせに元カレと離れないから悪いんだって。結局御三家に──あの月影くんにまで助けてもらったんでしょ」


 それでも──桐椰くんも松隆くんもいる御三家の中で、よりによって一番喧嘩沙汰に出てくるはずのない人を口にするということは、あの事件のことを全て知っていて初めて可能なことだ。

 そして、あの三人の中で、敢えて月影くんの名前を出す理由は、月影くんが私をあの場所から連れ出したのを見ていたから。


「本当、役得だよね」


 最後に一言私を詰り、有希恵は投票に向かった。視線だけはその後ろ姿に向けて、拳をぎゅっと握りしめる。


「ねぇ」

「え、なに」


 急に話しかけられた上谷(かみや)くんが驚いた声を出す。構わずに続けた。


「藤木未海さんって知ってる?」

「あ、あぁ、三組の藤木さんだろ? 蝶乃さんの応援演説もしてた……」


 やっぱり、体育祭で急につっかかってきたあの人。蝶乃さんの応援演説をした人の顔なんて覚えてないから、その点に関しては頷けないけれど。


「蝶乃さんの指名役員だったよね?」

< 177 / 395 >

この作品をシェア

pagetop