第三幕、御三家の矜持
「あぁ、そういえば……。でも元々一緒にいるのはよくみるよ」


 有希恵が早々に投票を終えたせいで、藤木さんの話はそれっきりになった。有希恵と擦れ違うようにブースに入り、置かれている紙と鉛筆を手に取る。委員会の名前がずらりと並んだ紙から顔を上げれば、目の前に候補者の名前が書かれていた。一人しか立候補していない委員はいいけれど、複数の立候補者がいるとどちらを選ぶべきなのか困る。どうせ誰も大して知らないし、と投げやりな気持ちで、直感的に名前を書いた。

 委員長と執行部とは投票用紙が別々になっているので、改めて執行部役員を決めるための紙を手に取る。会計は萩原くん一人。庶務も一人。書記は二人いるけれど、両方知らない名前。生徒会長は鹿島くん一人だけれど、せめてもの反抗として生徒会長の欄は空白にした。

 そして副会長の欄を埋めようとして、手を止める。心を落ち着かせようと、息を吐く。

 桐椰くんの名前を、こんな形で書くことになるとは思ってもみなかった。

 丁寧に折りたたんだ紙を、投票箱と書かれた箱に入れた。ブースを立ち去って、背後で他の人たちが投票する気配を感じながら、後悔のような気持ちを抱く。

 落選する桐椰くんを見たくはないけれど、副会長になる桐椰くんを見たくもなかったな。

 開票は、全校生徒の投票が終わり次第、勿体ぶられることなく速やかに行われる。因みに、生徒会長だけは所信表明をしなければならないらしいけれど、副会長含めそれ以外の役員は当選者の名前と得票数が読み上げられるだけらしい。

 私が教室に戻ってから十数分もすれば、各委員会の委員長から発表が始まる。司会を務めるのは放送委員の三年生。立候補者は別室に集められているので、私の後ろの席に桐椰くんはいない。


「≪只今より、第百代生徒会役員を発表します。まず初めに、図書役員長≫」


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