第三幕、御三家の矜持
 発表は図書役員長から始まった。「≪得票数、七三二票、薄野芙弓≫」と分かりきった結果は心臓に良いも悪いもない。立候補者が一人しかいないときにみんなが耳を傾けるのはせいぜい得票数だけなのだとか。一クラス四十人で一学年七クラス、全校生徒は単純計算で八百四十人。欠席者を加味しても人数にそれほど変わりはないので、八四〇という数字との差を支持率と計算していい。それでも、立候補者が一人しかいない場合に得票数が最大を記録しない理由は、生徒のパターンにある。そもそも選挙に興味がないのでおよそ投票などしない人、結果に変わりがないのならと複数立候補者がいる役職欄にだけ名前を書き込む人、たった一人の立候補者が気に食わないので敢えて空欄・無効票にする人──。これを加味すれば、ふーちゃんの得票数はそこそこの支持率を得たものと考えていいのではないだろうか。

 確かに、あんな美少女だとやっかみでも買うのが普通だろうけれど、中身がオタク全開だからなぁ……。それでもあざとくて嫌だなんて言う子はいるかもしれないけれど、大抵の人はきっと嫌いにはならないだろう。男子は中身さえ知らなければ積極的に好きになってるんじゃないかな。

 と、ふーちゃんの結果を聞いたところで席を立つ。第六西にも選挙放送が入るなら第六西で聞いたほうがいいと思ったからだ。

 が、すぐにその思いつきを後悔する。ピシャリと教室の扉を閉めると「あれ?」と楽しそうな声に呼ばれたからだ。

 ……鹿島くんの声だ。それだけで顔がひきつるのを感じる。それが嫌悪だと伝わるように、しかめっ面を向ければ、鹿島くんは筆箱片手にこちらに歩いてくるところだった。


「……何してるんですか、次期生徒会長さん」

「現生徒会長でもあるけどね。忘れ物をしたから取りに」


 その手にある筆箱が忘れ物とでもいうんだろう。なんでこうタイミング悪く出くわしちゃうかなぁ、と自分の運の悪さを責める。


「君は? 聞かなくていいの、選挙の結果」

「折角なら御三家のアジトで聞こうと思って」

「あぁ、確かにあそこも一応校舎だしね。でも学校の放送、入る仕様になってるのかな? 放置されてる古い建物だし、わざわざ細工でもしないと放送は入らないようになってると思うよ」


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