第三幕、御三家の矜持
 ……言われてみればその通りのような気はした。「あの松隆がわざわざ学校の連絡をききたがるとも思えないしね」なんて言われてしまえば猶更だ。

 松隆くんに訊いてみようか。でもわざわざ訊くまでして第六西で選挙結果を聞く必要もない気がした。


「大体、選挙の結果くらい教室で聞けばいいだろ? どうせ結果なんて分かりきってるし」

「……副会長は分からないじゃん」

「そうかな? せいぜい楽しめるのは得票数くらいだと思うけど」


 鹿島くんは蝶乃さんがどうなると思っているのだろう。気にはなるけど、聞いてわかるのはせいぜい鹿島くんが蝶乃さんに無関心かどうかくらいだろうから、あまり意味はない、か……。


「じゃ、俺は控室に行くから」

「あ、待って」


 普段なら、私が鹿島くんなんかを引き留めるわけがない。でも、私を通り過ぎようとした鹿島くんが驚いた様子はなかった。いつだって何を訊かれても不思議じゃないくらい私の知らない何かを知っている──そう思うと不気味だけれど、今はそこは考えないでおくことにした。


「……夏休みにあった、雅の……」

「菊池の?」

「……鹿島くんも知ってた、あの事件」


 鹿島くんの唇は不気味に歪んだ。


「あぁ、その話。その話をするときの君の顔、本当傑作だな」


 バチンッ、と掌同士がぶつかって衝撃音が響いた。鹿島くんの掌と触れ合った掌がびりびりと痛い。平手打ちを易々と止められた挙句、その手が握られてしまっているとなれば二重の意味で不愉快だ。


「……離してよ」

「先に謝れば?」

「叩かれても仕方ないこと言ったのは鹿島くんじゃん」

「あぁごめんね?」

「……離してくれる?」

「謝れって言ってるのに」


 ぱっと手を離されたので慌ててひっこめて、汚れでも拭うかのように、制服のスカートで右手を拭く。鹿島くんの手は熱かったので、この時だけは手が熱い人は心は冷たいなんて馬鹿げたことを言いたくなった。


「で、何の話だっけ」

「……前に、“因みに俺じゃないよ”なんて言ったけど」


 ぐっと、鹿島くんの意地の悪そうな目を睨み付ける。


「あれは、蝶乃さんがやったの?」


 鹿島くんの笑みは答えをくれなかった。代わりに「なんで歌鈴?」と飄々と言ってのけた。


「……誰も知らないはずなのに、体育祭で知ってた」

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