第三幕、御三家の矜持
「それだけ? 別に、歌鈴が誰かから聞いただけかもしれないよ」


 蝶乃さんを庇っているのだろうか。それにしては、鹿島くんの目は興味なんてなさそうなくらい平淡だけど。


「……蝶乃さんの指名役員も知ってた」

「歌鈴の……あぁ、藤木さんね」

「……蝶乃さんの指名役員って一人なの?」

「一人だね」


 ここで藤木さんの名前をいち早く出すということは藤木さんが関わっているということだろうか、と当たりをつけたのに、どうやらそういうわけではないらしい。


「……蝶乃さんの無名役員が、蝶乃さんと藤木さんがその事件の話をしてたのを聞いてた」

「そうやって一つずつパズルを並べて、俺に正解って言ってもらうのを待ってんの?」


 せせら笑いながら向けられた台詞に、ぐっと押し黙る。否定はできない。だって決定打がない。


「無名役員が言ってた、だから? 俺は指名役員以下をなくす予定だけど、それを聞いた無名役員がこれまでの仕返しに罪を擦り付けようとした可能性はあるんじゃない?」


 それも、否定できない。有希恵が何を考えているか知らないけれど、蝶乃さんのことを嫌いでもおかしくない。蝶乃さんの無名役員であることを、無名役員にしてもらったと思っているか、こき使う大義名分を与えてしまったと思っているか、どちらもあり得る。


「頭が悪いのか、はたまた菊池のこととなると犯人らしきヤツには噛みつきたくなるのか」

「…………」

「月影の頭でも借りたらどうなんだ? 少しは答えに近づくかもしれないし」

「……月影くんに話したところで情報が……」

「じゃ、ヒントをあげようか」


 ぽん、と鹿島くんは筆箱で自分の掌を叩いた。吊り上がった口角は、馬鹿な私を嘲笑う。


「君と菊池を襲ったヤツらと何らかの繋がりがないと、あの事件は起こせないよ」


 ……蝶乃さんは、そんな繋がりなんて持ってないとでもいうのだろうか。

 もう一度口を開きかけたとき、さきほどまで気に留めていなかった放送が「≪続きまして、生徒会執行部を務める役員を発表します≫」と言い始めたので、はっと顔を上げる。


「さぁ、生徒会役員選挙も大詰めだ」


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