第三幕、御三家の矜持
 その隙に鹿島くんは踵を返した。早速庶務の名前が発表される。立候補者が三人いた庶務と違って、生徒会長になることが決まっている鹿島くんの後ろ姿は余裕に溢れているように見えた。


「きっと副会長の一人は桐椰だろうね。君のほうからもこれからよろしくと伝えといてくれよ」


 そのまま鹿島くんは立ち去った。立候補者の控室は生徒会室の隣……。中々残酷な制度だ。去年は指名役員になれるからまだよかったのかもしれないけれど……。


「≪生徒会執行部、会計。得票数七二〇票、萩原宗政≫」

「会計はまた萩原か」

「順当といえば順当だな」


 そこでなぜか松隆くんと月影くんが現れた。声にギョッとして振り向けば、松隆くんから早速「鹿島と何話してたの?」なんて訊かれてしまった。そうだよね、このタイミングで出てくるってことは見てるよね。


「……副会長は桐椰くんだろうからよろしくって」

「ふーん、もう少し長く話してたように見えたけど?」


 にっこりと笑う松隆くんの顔に私の愛想笑いは凍り付いた。抜け目ないなこのリーダー! ただ、今回は松隆くんに聞かれて困る話じゃないから構わないと言えば構わない……か。鹿島くんがあの件を知ってることは月影くんにしか話してないけれど、今となっては隠す必要はない。


「いや……まぁ、あの、雅の──」


 雅の名前を出した瞬間に松隆くんの眉がぴくりと寄った。お陰で一度口を噤む。


「……なに、松隆くん」

「……いや? 続けて」

「……雅の、夏休みの件を、蝶乃さんが知ってるんだけど」

「あぁ、体育祭のね」


 噂になったのかなと思ったら「駿哉から聞いたよ」と付け加えられた。よかった、噂として広まってるかどうかは保留だ。


「……それで、蝶乃さんの無名役員の有希恵──梅宮さんが、蝶乃さんと藤木さんがその事件を詳しく知ってるんだって言ってて」

「具体的には?」

「……月影くんにまで助けてもらってたんだね、って梅宮さんからは言われたの。なんで知ってるのか聞いたら、その二人が話してたって」

「ふぅん……」


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