第三幕、御三家の矜持
 松隆くんは月影くんと顔を合わせる。そのまま「どう思う? 」「名前が出てこない以上何とも言えんな」「本人の口からは?」「引き込みの可能性がなくはない」なんて話し合っているけれど、微妙に私のしている話と噛み合わない。ただ、“引き込み”ということは、鹿島くんの言う通り、主犯は有希恵……?

「ま、とりあえず桜坂、一緒に来る?」

「え? どこに……」


 そういえば二人はどこへ行く予定でこんなところにいるんだろう、と首を傾げれば、松隆くんの目が怪しく煌めく。


「生徒会役員候補者控室だよ」


 ……一体、どういうつもりで。


「≪生徒会執行部副会長──≫」


 と、そこで副会長の発表に入り、ドキリとした。


「≪得票数五五八票、桐椰遼≫」


 その名前を聞いた瞬間、どくんと私の心臓が跳ねると同時に、教室内からは黄色い歓声が上がる。松隆くんは「アイツも人気だよねぇ、女子に」と飄々とコメントした。


「≪同じく生徒会執行部副会長、得票数一七三票、南波(なんば)正輝(まさき)≫」

「ほら、早く行くよ。帰っちゃうから」


 誰が、と松隆くんは言わなかったけれど、誰のことかは放送を聞けば明らかだった。


「……まさか、冷やかしでもいくの?」


 さすがにそれはやりすぎでは、と歩き出した二人の後を追いかける。

 自信満々だったけれど、誰もが予想した通りに桐椰くんが当選し、蝶乃さんは副会長の座から弾かれた。


「まさか。たったそれだけのために蝶乃の顔を拝みにいくもんか」


 本当に蝶乃さんのこと嫌いだな、松隆くん。


「松隆くんならやりかねないと思ってた……得票数はいくつ?とか聞いて」

「さすがに可哀想だろう。遼が票を食いすぎたとはいえ、現副会長にしてはあまりにも支持者がいないからな」


 その通りだ。副会長に投票するとき、名前を書けるのは一人だけ。得票数の多い順に当選するわけだけれど……そうなると、蝶乃さんは、最大でも一〇九票しか得ていない計算になる。しかもふーちゃんの票数を思い出せば、その最大数を得たとは到底思えない。


「じゃあ何しに……」

「控室には応援演説者も入れるからね」


 答えになっていないようで──答えになっている言葉を返される。蝶乃さんの応援演説者は藤木さんだ。


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