第三幕、御三家の矜持
「≪最後に、生徒会長、得票数七八二票、鹿島明貴人≫」

「……断っておくべきかな」


 渡り廊下で、鹿島くんの当選を合図にしたように、不意に松隆くんは立ち止まった。つられて立ち止まれば、たまに見る松隆くんの真顔が私を試すように見下ろす。お陰で鹿島くんの得票数に驚く暇はなかった。


「お察しの通り、俺と駿哉は蝶乃と藤木に訊きに行くんだよ──なんで桜坂を嵌めようとしたのかね。聞きたくない話も聞かされるだろうけど、どうする?」


 ……聞きたくない話って、なんだろう。雅がどんな目に遭ったのか聞かされるのかな。体育祭で藤木さんが、さっき有希恵が口にしたみたいに、御三家といるくせに雅とつるむな、なんて責められるのかな。それとも、嵌めるくらいには私を嫌いだと散々に罵られるのか……。

 いずれにせよ、聞きたくない話なんて思い浮かばなかった。


「大丈夫、行くよ」

「そう」


 松隆くんは短く答えると再び歩き出し「そう言うと思ってた」と付け加えた。月影くんが「本当にいいのか」とでも言いたげに私を見るけれど、問題ないよと肩を竦めておいた。


「……ところでそれって、どうして分かったの?」

「あの場にいた一人をシメて吐かせた」


 …………。思わず視線を落とした。やっぱり御三家を敵に回しちゃ駄目なんだ。“シメた”って一体何をしたんだろう。聞くのでさえ恐ろしい。

 生徒会立候補者の控室の前の廊下は意外と静かだった。選挙の結果でもっと騒がれているものだとばかり思っていたけれど、静かに話す声が聞こえてくるだけだ。松隆くんと月影くんは窓際にもたれかかる。


「……これって、控室で何してるの?」

「さぁ、俺も生徒会役員に立候補したことないし、透冶がやってたのも補佐だったからちょっと違うし。でも少なくとも、ただの立候補者で終わった生徒には伝えることなんて何もないだろうし、落選者はもう出てきていいと思うよ」


 言い方に棘がある。今回落選した中に蝶乃さんがいるからだろうか。

 ただ、言ってることは正しいというか、その通り。当選者が喜ぶ姿を見たくないだろうし、名前が呼ばれなかった瞬間に控室を飛び出してもいいはず。

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