第三幕、御三家の矜持
 それでも、控室の扉が開いたのは、鹿島くんが生徒会長をすると決まって十数分は経った後だった。出てきた人の名前は知らないけれど、演説に出ていた人なので顔には微妙に覚えがある。なんならふーちゃんまで出てきて「あっれー、亜季じゃーん」とこの場にそぐわぬいつもの明るい声を上げた。


「え、あ……そうだ、図書役員長当選おめでとう……」

「ありがとー、って言っても一人だけだから出来レースだけどねー。そういえば御三家は桐椰くんが副会長だよねー、おめでとー」

「あ、うん……ぜひ桐椰くんに言ってあげて」

「そうだねー、桐椰くん、金髪じゃなくなったら急に優等生っぽいし、副会長ぴったりっぽいもんねー」


 じゃねー、とそもままふーちゃんは立ち去った。こんなところで何してるの、と訊かれると思ったけどその点についてはノータッチだった。そしてふーちゃんはやはり松隆くんと月影くんには何も言わなかった。やっぱり二次元にしか興味がないんだろうな。

 そして、ややあって藤木さんが出てきた。やっぱり、体育祭のときに雅の件について口にした人だ。

 その藤木さんは、私達を見た瞬間にビクッと立ち止まる。


「……何してるの、こんなところで」

「君を待ってたんだよ、藤木」


 冷ややかな声が、名前を呼ぶだけで断罪している気がする。なぜか私が怖くなってさっと月影くんの背後に隠れてしまった。月影くんが不審な目──というか迷惑そうな目を向けるけれど気にしない。


「……私……?」

「未海、早く行ってよ」


 そして藤木さんの背後からは迷惑そうな顔の蝶乃さんが出てきた。やっぱり蝶乃さんも私達を見て立ち止まる。ただ、藤木さんと違って、驚きこそすれ怖がりはしない。寧ろその顔は「なんでここにいんの?」と言わんばかりだ。松隆くんと蝶乃さんは私と蝶乃さん並みの犬猿の仲なのか、二人の間では冷たい視線が交差している。


「蝶乃もどうせ関係あるんだろうからついでに訊こうか」

「何の話よ」

「七月末、俺達、ちょっとした暴力事件に巻き込まれたんだけど」

「暴力事件って……別に、あなた達には日常茶飯事でしょ。それがあたしに何の関係があるわけ」


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