第三幕、御三家の矜持
 暴力事件……。私と雅を助けてくれたときのことを考えれば、暴力事件といえば暴力事件なんだけど、厳密にはそう名付けられることではない。とはいえ、雅の名前を出さず、私に何が起こったか言わずに説明するのはそれがいいのかもしれないな。なんてことをぼんやり考えて。


「藤木が企んで起こした事件なんだけど、これ、お前も噛んでるの?」


 特定されている名前に息を呑む。私だけじゃない、名指しされた藤木さんもだ。

 松隆くんの目が蝶乃さんから藤木さんに移れば、藤木さんは蛇に睨まれたカエルのように縮こまる。


「何の話……」

「総、駿哉」


 騒ぎ(というほどの騒ぎにはまだなっていないけれど)を聞きつけた桐椰くんが、慌てた様子で教室の中から顔を出す。蝶乃さんと藤木さんに扉の出入り口を塞がれているせいか、もう一つの出入り口からわざわざやってきた。ダークブラウンの髪の桐椰くんはやっぱり見慣れないせいで、一瞬誰かと思ってしまう。


「コイツの前はやめろって言ったろ」


 ということは、雅の事件に誰が関係しているのかを桐椰くんも知っていたのか……。私だけ知らなかったということは、やっぱり私に聞かせるべきじゃないと三人が思ったからなのかな。


「一応了承はとったよ」

「逆だろ、誰が絡んでるか分かったらコイツは絶対聞きたがるから気を付けようって話したんじゃねーか」

「ねぇ、人の親友捕まえて何?」


 松隆くんがもう一度口を開きかけたところで、蝶乃さんが藤木さんの前に出た。松隆くんの視線は、桐椰くんの視線と揃って蝶乃さんに戻る。蝶乃さんは副会長の座を失ったことを気にしていないのか、いつも通りの毅然とした態度で松隆くんを睨み付ける。


「変な言いがかりならやめてくれる? さっきも言ったけど、暴力事件はあなた達にとって日常茶飯事、誰が何をしなくても勝手に巻き込まれるんじゃないかしら?」

「随分悪い印象を持たれたもんだね。少なくとも俺は遼と違って大人しくしてるんだけどな」

「で、結局何の話よ」

「何の話かは最初から言ってるだろ? お前は藤木の件に噛んでるのか、って」

「だからその未海の件ってなによ」

「それは藤木の口から聞けば? なぁ藤木」


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