第三幕、御三家の矜持
 御三家の考えているシナリオはこうだろう。まず出発点は、藤木さんが私を嫌いだったこと。そして藤木さんの中学校の同級生にいた渋谷とかいう人は、話の流れ的に雅の事件のときに工場にいた一人だ。私を嫌いな藤木さんが渋谷くんに相談して、私を陥れる何かいい策がないか持ち掛けた。それを聞いた渋谷くんは、雅を使えば私を騙せること、御三家を殴れると言えばある程度の人数が集まること、御三家が来るまでに私を好きにすれば十分に藤木さんの要望に応えられることをきっと提案した。

 でも、そうだとしたら、雅を使えば私が簡単にやってくることを、なぜ知っていたのだろう。


「ま、生徒会副会長の指名役員だったお前にとっては、俺達を甚振(いたぶ)ることも含めて満足のいく計画だったんだろうけど……あぁ、ごめん」


 松隆くんの視線は蝶乃さんに移った。


「元、副会長だったね。話は変わるけど、落選ご愁傷様」


 その瞬間、蝶乃さんがぐっと拳を握りしめたのを見逃すはずがなかった。でもさすがに松隆くんに殴りかかるようなことはせず、にこっとひきつる笑顔を浮かべる。


「いまその話は関係ないわ。いつまでも未海にあらぬ疑いをかけたままでいてほしくないし、そっちの話を続けてよ」

「あぁ、冷静でいてくれて何より。でも藤木が話してくれないとどうにも話は進まないんだよね」


 藤木さんはだんまりだ。いや、だんまりというより、どこか拗ねているように見えた。子供が怒られて、それでも怒られる理由を理解できないから拗ねた、そんな表情。

 でもそうだとしたら、なんで理由を理解できないんだろう。雅があんな目に遭ったのに。


「……藤木」


 そこで桐椰くんが口を開いた。漸く藤木さんは視線を向けたけれど、藤木さんと桐椰くんって知り合いなのだろうか。


「俺達が渋谷から聞いたのは、俺達を陥れたかった渋谷が、人質になりそうな女子がいないか藤木に訊いたってことだった。そしたらコイツの名前が出てきたからコイツを使おうって。本当にそうか?」


 話を聞く感じ、その渋谷くんは藤木さんを好きなんだろう。だから渋谷くんが藤木さんを庇って、あくまでも首謀者は自分だと言っている可能性はある。藤木さん本人の口から聞かなければ首謀者がどちらかは分からない。

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