第三幕、御三家の矜持
 でも──。今ここで藤木さんを糾弾することには不安がある。首謀者が藤木さんか渋谷くんだというのなら、雅を利用できたことを説明できない。

 ただ、どちらにしろ藤木さんは答えなかった。松隆くんは呆れた表情になった後で蝶乃さんに視線を戻す。


「……というのが、俺達が藤木にしたい話なんだけど。蝶乃、お前は噛んでるの?」

「私には関係ないわ。初耳だし」

「初耳、ね……」


 そんな返事を嗤いたくなるのも当然だ。有希恵の話が正しければ、蝶乃さんは既に藤木さんからその話を聞いているはずなのだから。


「じゃあとりあえず蝶乃は置いといて。藤木、早く答えたら? 俺達も暇じゃない」


 藤木さんはやはり何も言わない。何か言えばボロが出ると思っているのだろうか。それとも、何も言えない理由でもあるのだろうか。


「折角こうやって訊いてあげてるのに、言うつもりないの?」


 埒が明かないと分かっているのか、松隆くんはあまり間を置かずに畳みかけた。


「じゃあもう一つ訊こうか。お前、体育祭でこの件のことをわざわざ大声で言って桜坂に怒られたらしいけど、よくこの件のこと知ってたね?」

「……そんなの噂になってたし」

「あの日あの場にいたメンツは全員徹底的に締め上げた」


 藤木さんの言葉尻を浚うように素早く、かつ強い口調で告げたのは桐椰くんだった。その厳しい言い方のせいか、藤木さんの肩がビクッと震える。


「口外しないように、徹底的にな。だから俺達は、体育祭でお前と蝶乃が口にした以外にこの件の噂を聞いたことがない」

「……そんなの、ただの偶然……」

「偶然といえば、こんな会話も偶然あるんだが」


 そして、どうしてか月影くんはスマホを取り出す。加えて“会話がある”なんて台詞を聞けば、そのスマホで何をするのかなんて分かりきっている。


「≪……っかく頼んだのに、写真一枚も残ってないとか、台無し≫」

「≪使える相手は選んだほうがいいってことでしょ? その渋谷くん、上手くやってくれてると思ったのに肝心なところでダメね≫」

「≪本当、スマホ壊されたなんてただの言い訳だし。あーあ、写真さえあれば桜坂さん学校から追い出せるチャンスだったのになー≫」


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