第三幕、御三家の矜持
 そっか、やっぱりちゃんと見ててくれたんだな……。疑っていたわけではないけれど、桐椰くんとの間には微妙な空気感が漂う二日間なので、いつも通りの態度にどこか安心した。松隆くんは鞄を下ろすと「まぁ鳥澤なら何もないだろうね」とコメントしながら桐椰くんの隣に座る。私の定位置が奪われた上に、私も松隆くんの隣に座ることができないわけではないという微妙な空間が残ってしまっている。このメンツでそんな気まずい場所に座るわけにはいかず、じゃあ肘掛に座らせていただこう……、とちょんと座りこめば、桐椰くんも松隆くんも何も言わなかった。なんなら桐椰くんは鳥澤くんについて記憶を探るように首を傾げている。


「鳥澤? 知らねーな……」

「かもね。俺は去年クラスが同じだったし、今は駿哉と同じクラスだから俺達は知ってるけど。生徒会役員ではないけど、良くも悪くも目立たないお陰で生徒会役員から目をつけられたことも、つけられる気配もない。だから本気で桜坂のこと好きな可能性もあるかな。きっかけとか聞いた?」


 ぶんぶんと首を横に振る。聞けばよかったのに、と肩を竦められたけどそんなことできるはずがない。ふーん、と桐椰くんは相槌を打った。


「生徒会関係ないならいーんじゃねーの。妙に勘繰ったり心配したりしなくていいだろ」

「そうだね。もう終わった話だけど」


 鳥澤くんの恋路終了宣言に桐椰くんがきょとんとしている。そりゃそうだよね、強制終了させられちゃ鳥澤くんも堪らないよね! 松隆くんの横暴さは御三家のリーダーとして御三家内では留まらないようだ。ただ桐椰くんも追及する気にはならなかったのか「まー……別にいいけど……」と話を続ける気のなさそうな相槌を打つ。この二人がその話題を口にするのは気まずいんだからそれでいいんだけどさ……。二人はそのまま「種目何出るの?」「リレー。お前も出るんだろ」「まーね」と体育祭の話に話題を変える。

 新学期になって漸く会えた松隆くんが告白に関して口にしたのは先程の一言だけだ。昨日の放課後の帰り道といい、今日といい、何事もなかったかのように接してくれるのは──我儘だけれど──ありがたい。その反面、話すたびに病室での松隆くんの表情が脳裏に過る。どうして、あの時の松隆くんは、私に恩を売るために守ったかのような嘘を吐いたのだろう──……。


「桜坂は?」

「え?」

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