第三幕、御三家の矜持
コイツのことだと言わんばかりに蝶乃さんは私を鋭く睨み付ける。目だけで謂れのない誹りを受けてしまったので抗議の一つでもしたい気分だったけれど、このメンツの前ではそういうわけにもいかない。
「本当、運が良いわよね、子供を愛してくれる家に生まれて、学校では御三家に守られて? いいご身分ってそういうことを言うのよ」
でもそうとは知らず、何も言わない私に、蝶乃さんは嘲りの顔を向ける。
「運が良いだけのくせに、それを当たり前みたいな顔して──」
「蝶乃、黙れ」
それを断ち切った乱暴な声は、やっぱり桐椰くんのものなのに、桐椰くんのものじゃないみたいで。
「いま、そんなことはどうでもいい」
「は、どうでもいいって」
「俺は今、お前がコイツを嵌めたことにどう関わってるか聞いてる」
台詞までもが、桐椰くんのものじゃない。
だって、さっきまで蝶乃さんが散々に叫んだのは、どう考えても告白だった。松隆くん達は、中学生のときの蝶乃さんはステータス欲しさに桐椰くんと付き合ったんだろう、なんて笑っていたけれど、本当は本当に桐椰くんを好きだったってことだ。
驚きはするけれど、告白には変わりない。それなのに“どうでもいい”の一言で片づけるなんて、博愛主義なのかってくらい優しい桐椰くんの言葉じゃない。
桐椰くんがそんな酷いことをするわけがない。
きっとその感想は私以外も共有したと思う。その証拠に、松隆くんでさえ桐椰くんに続いて蝶乃さんを問い詰めるようなことはしなかったし、する気配もなかった。
しん、と廊下は静まり返った。生徒会控室が普通の教室と離れているお陰で野次馬はいなかったけれど、そのせいで反って空気は重かった。
「……なんなのそれ」
ややあって、吐き捨てるような蝶乃さんの声が落ちる。
「そうね。桜坂さんが菊池くんっていう元カレに未練たっぷりで、菊池くんを使えばいくらでも騙されるって分かったから、未海にその話をしたわ。未海は桜坂さんを学校から弾きだしたかったから、渋谷くんにその愚痴をいって、御三家関係なら人を集めやすいってこともあって丁度良かったってわけ」
説明するときのその口振りも荒っぽくて、自棄になっているのが分かった。
「で、藤木は」
「本当、運が良いわよね、子供を愛してくれる家に生まれて、学校では御三家に守られて? いいご身分ってそういうことを言うのよ」
でもそうとは知らず、何も言わない私に、蝶乃さんは嘲りの顔を向ける。
「運が良いだけのくせに、それを当たり前みたいな顔して──」
「蝶乃、黙れ」
それを断ち切った乱暴な声は、やっぱり桐椰くんのものなのに、桐椰くんのものじゃないみたいで。
「いま、そんなことはどうでもいい」
「は、どうでもいいって」
「俺は今、お前がコイツを嵌めたことにどう関わってるか聞いてる」
台詞までもが、桐椰くんのものじゃない。
だって、さっきまで蝶乃さんが散々に叫んだのは、どう考えても告白だった。松隆くん達は、中学生のときの蝶乃さんはステータス欲しさに桐椰くんと付き合ったんだろう、なんて笑っていたけれど、本当は本当に桐椰くんを好きだったってことだ。
驚きはするけれど、告白には変わりない。それなのに“どうでもいい”の一言で片づけるなんて、博愛主義なのかってくらい優しい桐椰くんの言葉じゃない。
桐椰くんがそんな酷いことをするわけがない。
きっとその感想は私以外も共有したと思う。その証拠に、松隆くんでさえ桐椰くんに続いて蝶乃さんを問い詰めるようなことはしなかったし、する気配もなかった。
しん、と廊下は静まり返った。生徒会控室が普通の教室と離れているお陰で野次馬はいなかったけれど、そのせいで反って空気は重かった。
「……なんなのそれ」
ややあって、吐き捨てるような蝶乃さんの声が落ちる。
「そうね。桜坂さんが菊池くんっていう元カレに未練たっぷりで、菊池くんを使えばいくらでも騙されるって分かったから、未海にその話をしたわ。未海は桜坂さんを学校から弾きだしたかったから、渋谷くんにその愚痴をいって、御三家関係なら人を集めやすいってこともあって丁度良かったってわけ」
説明するときのその口振りも荒っぽくて、自棄になっているのが分かった。
「で、藤木は」