第三幕、御三家の矜持
代わりに桐椰くんの声は冷え冷えとしていた。そういえば、月影くんが、私が知らないだけで桐椰くんもドライな一面があると言っていたっけ。
藤木さんは目を逸らしたままだった。録音を聞いた後、蝶乃さんと桐椰くんの口論をどういう気持ちで聞いていたんだろう。挙句、今となっては蝶乃さんの口からまでも何をしたか詳らかにされてしまったとなれば……。
「……ごめんなさい」
蝶乃さんの態度とは裏腹に、藤木さんはしおらしく項垂れて涙声で謝った。
「歌鈴ちゃんの言った通りです。御三家に……桐椰くんに優しくしてもらってる桜坂さんが羨ましかったから……」
ん……? 奇妙な違和感に思わず内心首を傾げた。藤木さんは御三家の中でも桐椰くん推し……。
「そのこと歌鈴ちゃんに話したら、いい話があるって……桜坂さんは菊池くんが好きだから、菊池くんがいれば、って……」
目を潤ませて、本格的に泣き始めた藤木さんはためらいがちに続ける。
「それで、歌鈴ちゃんが細かい計画を立てて……」
「ちょっと待ってよ」
それを蝶乃さんが制止した。そこで私も違和感に気づく。
「それは未海がやったことでしょ。あたしが口を出したのは菊池くんのことだけよ」
「何、言ってるの、歌鈴ちゃん……」
遂に藤木さんはしゃくりあげているけれど、先程から感じている違和感と体育祭で目撃した白々しい態度とを考えればここで涙に怯む理由はない。
「襲われてる桜坂さんの写真でもなんでもばらまけば学校なんかいられなくなるって言ったのは歌鈴ちゃんじゃん!」
その非難めいた告げ口に、視界の隅の桐椰くんがぴくりと眉を寄せた。
「あたしはそんなことまで言ってない! あたしの提案通り未海が菊池くんに桜坂さんを誘き寄せてもらうことにしたって話すから、じゃあそこからどうするかは知らないけど人が要るんじゃないのって」
「いろんな人紹介したのも歌鈴ちゃんじゃん!」
「それは渋谷くんっていうあなたの友達が探した人でしょ? あたしがそれだけの人をどうやって集めるのか聞いたら渋谷くんがもう当たりをつけてるって」
「適当なこと言わないでよ! やろうって言ったのも計画立てたのも歌鈴ちゃんなのに!」
どちらかが嘘を吐いているだけの、無意味な水掛け論。先程からの違和感は現実になった。
藤木さんは目を逸らしたままだった。録音を聞いた後、蝶乃さんと桐椰くんの口論をどういう気持ちで聞いていたんだろう。挙句、今となっては蝶乃さんの口からまでも何をしたか詳らかにされてしまったとなれば……。
「……ごめんなさい」
蝶乃さんの態度とは裏腹に、藤木さんはしおらしく項垂れて涙声で謝った。
「歌鈴ちゃんの言った通りです。御三家に……桐椰くんに優しくしてもらってる桜坂さんが羨ましかったから……」
ん……? 奇妙な違和感に思わず内心首を傾げた。藤木さんは御三家の中でも桐椰くん推し……。
「そのこと歌鈴ちゃんに話したら、いい話があるって……桜坂さんは菊池くんが好きだから、菊池くんがいれば、って……」
目を潤ませて、本格的に泣き始めた藤木さんはためらいがちに続ける。
「それで、歌鈴ちゃんが細かい計画を立てて……」
「ちょっと待ってよ」
それを蝶乃さんが制止した。そこで私も違和感に気づく。
「それは未海がやったことでしょ。あたしが口を出したのは菊池くんのことだけよ」
「何、言ってるの、歌鈴ちゃん……」
遂に藤木さんはしゃくりあげているけれど、先程から感じている違和感と体育祭で目撃した白々しい態度とを考えればここで涙に怯む理由はない。
「襲われてる桜坂さんの写真でもなんでもばらまけば学校なんかいられなくなるって言ったのは歌鈴ちゃんじゃん!」
その非難めいた告げ口に、視界の隅の桐椰くんがぴくりと眉を寄せた。
「あたしはそんなことまで言ってない! あたしの提案通り未海が菊池くんに桜坂さんを誘き寄せてもらうことにしたって話すから、じゃあそこからどうするかは知らないけど人が要るんじゃないのって」
「いろんな人紹介したのも歌鈴ちゃんじゃん!」
「それは渋谷くんっていうあなたの友達が探した人でしょ? あたしがそれだけの人をどうやって集めるのか聞いたら渋谷くんがもう当たりをつけてるって」
「適当なこと言わないでよ! やろうって言ったのも計画立てたのも歌鈴ちゃんなのに!」
どちらかが嘘を吐いているだけの、無意味な水掛け論。先程からの違和感は現実になった。