第三幕、御三家の矜持
「ねぇ桜坂さん、あなたここに来てずっと黙ってるけど、何か言いたいことはないのかしら? 御三家が全部代弁してくれるわけ? いいご身分ね。本当、お姫様気分で吐き気がするわ」


 そんな台詞を文字通り吐き捨てて、蝶乃さんはストレスも解消できたらしい。桐椰くんに怒られたときの困惑まで含めて、まるで見間違いだったかのようにすっかりその表情から消えていた。

 かくいう私は、そうやって、蝶乃さん達のリアクションに驚きこそすれ感情を揺さぶられることなく、ただ平淡な目で見ていただけだったんだと、漸く気が付いた。


「……だって、何を言えばいいのか分からないし」


 だから、やっと出てきた台詞はその程度のものだった。


「とりあえず、藤木さんがやったのか蝶乃さんがやったのか知らないけど、やったこと全部分かったら退学になってもおかしくないよね。だって犯罪だし」


 “退学”という単語を聞いた瞬間に藤木さんは肩を震わせた。その制裁を現実味のないものと思っているからあんなことをしたんだと思っていたのに、どうやら何も考えていなかっただけらしい。そして、そんな反応を見る限り、ここでは蝶乃さんの言ったことが正しくて、主犯は藤木さんなんだろう。


「でも、そんなことを先生とか警察に告げ口したって意味ないじゃん。桐椰くん達は私を助けてくれただけだけど、それでも警察沙汰になれば面倒ごとになるんじゃないのかな。私は別に藤木さんを退学にして喜ぶ性格じゃないし、御三家に迷惑がかかるわけだし、そんなことはしないでいい」

「桜坂、俺達のことは別に──」

「それに、脅されて片棒担(かつ)がされた雅はどうなるの?」


 松隆くんの声を無視して、私の平淡な声が続く。雅の名前が出た瞬間に蝶乃さんの眉が吊り上がった。


「雅が脅されたんだって証明できなきゃ意味がない──ううん、証明できたら、雅が私を守ってくれた意味がなくなっちゃう。だから、私は別に二人みたいにぎゃあぎゃあ喚いて責め立てたいとは思わない」

「……雅、雅、って。本当に、菊池くんのことばかりね」


 蝶乃さんは私を鼻で嗤い、私と桐椰くんを見比べた。その目からは、“桜坂さんの中に菊池くんと桐椰くんを載せた天秤があるんでしょう”なんて邪推が読み取れた。


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