第三幕、御三家の矜持
「これだけ御三家に守られて、まだ元カレのことしか考えられないわけ? いい加減にしなさいよ」
「……雅のことが大事で何が悪いの?」
「別に悪いとか言わないけど、なんでそこまで元カレに未練あるの? 正直気持ち悪いわ」
それは桐椰くんに今しがた告白した蝶乃さんが言えることじゃないのでは、とは言わずにおいた。蝶乃さんが桐椰くんに向けている感情と私が雅に向けるそれとは別物だから。
「そこまでするなんて、よっぽど酷い別れ方したのね」
「……蝶乃さんは人とそういう付き合い方しかできないんだね」
クラスマッチのときに思った。私と蝶乃さんは似てるんだろうなって。実際、親を恨むような嘆きには聞き覚えみたいなものがあった。
「……どういう付き合い方だっていうの?」
「自分が一番不幸みたいな顔してる蝶乃さんには分かんないんじゃないの」
私だってずっとそう思ってた。なんで私だけこんな目に遭うんだろうとか、私ばっかり不幸だとか、運のいい人が羨ましいとか。だから蝶乃さんの気持ちは、残念ながら理解できないことはない。
だから、蝶乃さんのことが気に食わないんだろうと思う。私が目を逸らしたくなるくらい、消してしまいたい昔の私を見せつけられている気分になるから。それでもって、無言で他人に八つ当たりするんじゃなくて、声高に境遇を叫びながら当たり散らすその姿が、最低な私を現実にしたみたいで嫌いだった。
「別に、産まなきゃよかったなんて言われる人なんていくらでもいるんじゃない。それをどうこう言うつもりはないけどさ、私に押し付けないでくれないかな」
「……アンタになにが分かるわけ?」
「何も分かんないよ」
蝶乃さんとの口論の着地点はいつも同じ──“温室育ちが偉そうなことを言うな”。そしてクラスマッチのときを除いて、周りには誰かがいたからずっと何も言わなかったし、さっきだって我慢した。
でも、体育祭のときに雅の件は「アタシじゃないわ」と答えたくせに何もかもを知っていた蝶乃さんを前にして、なんで黙ってなきゃいけないんだろう、と静かな怒りが湧いてきた。
「産まなきゃよかったとか、アンタさえいなければよかったのにとか、死んでくれればよかったのにとか、何回も言われたことあるけど、優しい家で育った人がああだのこうだの、喚く気になんかならないもん」
「……雅のことが大事で何が悪いの?」
「別に悪いとか言わないけど、なんでそこまで元カレに未練あるの? 正直気持ち悪いわ」
それは桐椰くんに今しがた告白した蝶乃さんが言えることじゃないのでは、とは言わずにおいた。蝶乃さんが桐椰くんに向けている感情と私が雅に向けるそれとは別物だから。
「そこまでするなんて、よっぽど酷い別れ方したのね」
「……蝶乃さんは人とそういう付き合い方しかできないんだね」
クラスマッチのときに思った。私と蝶乃さんは似てるんだろうなって。実際、親を恨むような嘆きには聞き覚えみたいなものがあった。
「……どういう付き合い方だっていうの?」
「自分が一番不幸みたいな顔してる蝶乃さんには分かんないんじゃないの」
私だってずっとそう思ってた。なんで私だけこんな目に遭うんだろうとか、私ばっかり不幸だとか、運のいい人が羨ましいとか。だから蝶乃さんの気持ちは、残念ながら理解できないことはない。
だから、蝶乃さんのことが気に食わないんだろうと思う。私が目を逸らしたくなるくらい、消してしまいたい昔の私を見せつけられている気分になるから。それでもって、無言で他人に八つ当たりするんじゃなくて、声高に境遇を叫びながら当たり散らすその姿が、最低な私を現実にしたみたいで嫌いだった。
「別に、産まなきゃよかったなんて言われる人なんていくらでもいるんじゃない。それをどうこう言うつもりはないけどさ、私に押し付けないでくれないかな」
「……アンタになにが分かるわけ?」
「何も分かんないよ」
蝶乃さんとの口論の着地点はいつも同じ──“温室育ちが偉そうなことを言うな”。そしてクラスマッチのときを除いて、周りには誰かがいたからずっと何も言わなかったし、さっきだって我慢した。
でも、体育祭のときに雅の件は「アタシじゃないわ」と答えたくせに何もかもを知っていた蝶乃さんを前にして、なんで黙ってなきゃいけないんだろう、と静かな怒りが湧いてきた。
「産まなきゃよかったとか、アンタさえいなければよかったのにとか、死んでくれればよかったのにとか、何回も言われたことあるけど、優しい家で育った人がああだのこうだの、喚く気になんかならないもん」