第三幕、御三家の矜持
 三人分、息を呑む気配がした。三人分ということは月影くんもだけれど、そうか、月影くんに話したことがあるのは幕張匠のことくらいか。


「雅だってそう。だから、そうやって喚く蝶乃さんの気持ちなんか私達には全然分からない」


 気づいたときには、廊下は静まり返っていた。藤木さんまでが泣き真似をやめていた。でも蝶乃さんはといえば、とんと意味が分からないとばかりに眉を顰めているだけ。本当、蝶乃さんって自分に都合の悪いことは聞こえないような構造になってるのかな。

 そんな嫌味の一つでも口にしようかと思ったとき、教室の中から最後の一人が顔を出す。


「そろそろ話は終わった?」


 どうやら生徒会長は出ていくタイミングを失って控室に留まっていたらしい。私達が顔を向ければ、鹿島くんはいつもの冷たい笑みを浮かべる。


「桐椰、副会長は引継ぎがあるから明日の放課後は今日みたいなことはするなよ」

「……お前に言われなくても分かってるよ」


 これから鹿島くんの下につくことになった桐椰くんが苦々し気に答えた。教室の扉に寄り掛かるようにして私たちを静観する鹿島くんが、今度は松隆くんに目を向ける。


「大体の応援演説者は控室に来てたっていうのに、わざわざ遅れて登場したのは歌鈴達を捕まえたかったからか?」

「そうだね。一応他にも、お前の顔を見ておきたくなかったって理由はあるけど」

「相変わらず毛嫌いしてくれるな。で、桜坂、君の気は済んだ?」


 私の大人げない反論のことを指してるんだろう。鹿島くんが蝶乃さんの彼氏として蝶乃さんの味方をするのは分かるけれど、なんで私が我儘を言ったみたいになってるんだ、と心で反抗した。


「……そうですね、気は済みました」

「そう」

「でも、まだ藤木さんには聞きたいことがある」


 藤木さんは、涙のひいた目を私に向ける。これ以上何か?と言いたげな目に反省の色はなかった。


「雅を脅迫したの、誰」

「雅って……菊池くんよね。知らない、祥平が好きにやってたし」

「じゃあ今すぐその祥平とかいう人に確認してよ」

「はぁ、なんで私が」

「私、花高の仕組みのことよく分かってないんだけど、生徒の転校とかもお金持ち生徒の希望通りなのかな?」


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