第三幕、御三家の矜持
 渋る藤木さんにイライラした。誰が私の秘密を知っていて、誰が雅を脅したか、それを知ることができないと、藤木さんを責めても意味はない。


「そうだけど、あなたのお家にそんな力があるのかしら」


 口を挟んだのは蝶乃さんだった。私を虐げることができそうな場面ではここぞとばかりに首を突っ込んでくるな、この人。


「私のお父さんは何もできないと思うよ。別にグループ企業のトップってわけでもないし」

「だったら今のははったりかなにかなのかしら?」

「半分くらいそうかも」

「そうかもって──」

「だって私も知らないから」


 鼻で笑う蝶乃さんを無視して藤木さんに向けて続ける。藤木さんは指名役員だった、ということは少なくとも指定役員になるほど誰も彼もが認めるお金持ちではないということだ。


「私の転入に紹介状書いてくれた、お父さんの友達のこと、私も知らないけど。その人の素性次第では、藤木さんが残念ながら花高にいられなくなりました、なんてこともあるのかなって今期待してるところ」


 以前鳥澤くんが口にした通り、花高における転校生は珍しい。知っている人は一部らしいけれど、転入には紹介状も要る。転入となれば何かしら事情があるはずで、両親の仕事の都合なんて理由以外の妙な事情があっては困るからだ。

 だから私が花高に入れたのは、お父さんの友達だという人の紹介のお陰だ。その友達はかなり立派な人なのかなんなのかは知らないけれど、少なくとも紹介状を書けるくらいの人ではある。だから、蝶乃さんだとグレーゾーンでも、藤木さんならどうにかできるんじゃないかという期待はある。

 ただ、お父さんに頼んで、お父さんの友達を使って藤木さんを転校させる、そんな馬鹿げたことをしたくはない。だって生徒会の人たちとやってることは同じだ。

 それでも、犯人を知るためならそんなプライドどうでもよかった。


「……くだらない。その人がどれだけの人かは知らないけど、生徒一人を無理矢理転校させるようなことができるのかしら。ま、あたしには関係ないけど」


 藤木さんに売られた蝶乃さんは、軽蔑でもするような眼差しを藤木さんに向けてそっぽを向いた。藤木さんは唇を噛む──しまった、最後まで蝶乃さんについておけばよかった、とでも思っているのだろうか。そんな邪悪な気持ちを抱いてしまった。


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