第三幕、御三家の矜持
「だから、私がお父さんに相談する前に話してよ」

「……だから私は何も知らないって言ってるでしょ」

「さっきもそういってたくせに、全部知ってたよね?」

「でもこれは祥平のやったことだから!」

「まぁ藤木、ここは正直に話したほうがいいんじゃないか?」


 何も知らないを貫こうとする藤木さんを宥めるように、鹿島くんが妙に優しい声をかける。


「……鹿島くんまでそんなこと言うの?」

「そうだな、損得勘定はわりと得意だから、言ったほうが藤木には得だと思ってアドバイスするよ」


 なんなら、その目は嘲るように私を一瞥した。


「桜坂の父親は、松隆の父親の旧友だから。桜坂の告げ口で松隆を巻き込んだことも明るみになれば、桜坂の父親が頼むまでもなく藤木は追放されるんじゃないか?」


 ──松隆くんのお父さんの旧友?

「何……」


 それって本当なの、と私の喉から出る前に、松隆くんの掠れた声が背後から聞こえた。


「あぁ、二人とも知らなかったんだな」


 わざとらしく嘲った鹿島くんの視線の先では、桐椰くんと月影くんまでもが松隆くんを見つめていた。

 そして、瞠目した松隆くんがゆっくりと私に視線を返す。


「……聞いたことない」

「……私も聞いてない」

「どうしてだろうな? 仲が良くて、息子と娘が同い年となればお互いに伝えていてもいいはずなのに」


 ……鹿島くんが指摘した通り、仮にお父さんの友達が松隆くんのお父さんだというのなら妙だ。

 私がお父さんから聞いていたのは「たまたま友達が花高に縁のある人でよかったよ」程度のもの。その程度の説明だったから、昔の卒業生かなにかなんだろうとしか思わなかった。その友達だという人が昔花高を卒業しただけで、いまは息子や娘が通っているというわけではないんだろう、と。

 でも実際は、あろうことか松隆くんのお父さんだという。なぜお父さんは、「その友達には同い年の息子さんがいるんだよ」とさえ教えてくれなかったのだろう。松隆くんのお父さんだって、どうして「友達の娘が転入するんだ」と松隆くんに話さなかったのだろう。

 教える必要がない以上に──教えたくない理由でも、あったというのだろうか。


「……松隆くんのお父さんは忙しくて話す暇がなかっただけかもしれない」

「でも俺は母親と一緒に桜坂の家まで行ってる」


< 199 / 395 >

この作品をシェア

pagetop