第三幕、御三家の矜持
「何に出るの?」


 あぁ、体育祭の話か……。夏休みのことを思い出していたせいで一瞬思考が追い付かなかった。


「選択で出るのは障害物競走だけ……。松隆くんはリレー出るんだね」

「そ。面倒くさいよね、二年だから三年に御膳立てしてあげなきゃいけないし」


 三年生のために負けるわけにはいかない、という台詞がこうも皮肉の溢れる台詞に変わると誰が想像できるだろう。思わず苦笑いで返事をしてしまった。


「体育祭は生徒会役員に花を持たせなくていいの?」

「クラスマッチと違って生徒会役員だけでチームを組むってわけにはいかないからね。部活対抗リレーは生徒会が特別枠で出るから同じことが起こる可能性はあるけど」


 体育祭は一学年をごちゃまぜにして五色に分けられる。私と桐椰くんは赤組で、松隆くんと月影くんは白組だと聞いた。因みに各色に分かれた応援合戦では白組は男子が学ラン、女子がセーラー服を着るとのことで松隆くん派と月影くん派が妙な盛り上がりをみせていた。因みに赤組は男子が(はかま)、女子が赤色の浴衣だ。男子の袴は上裸に(さらし)を巻くらしく、これまた桐椰くん派が最高の盛り上がりをみせていた。もしかしたら体育祭は御三家のためにあるのかもしれない。因みに各衣装は学校の備品としてあるので各自が準備する必要はない。


「面倒臭い行事だよな。練習日もとってねーし、やる気ないのは分かるってのに」

「一部体育会系が盛り上がって終わる行事だからね。月曜に休日を貰うための対価を払うようなものだと考えれば納得できないわけでもないけど」


 つくづく体育祭に無関心だな、このリーダー……。情熱溢れる松隆くんもそれはそれで気持ち悪いけれど、ここまであからさまに面倒臭がる様子は松隆くんのファンには見せられない気もする。多分松隆くんのファンはあんまり松隆くんの本性とか知らないだろうし。……いや、松隆くんが私のクラスで舞浜さんの机を蹴り倒した事件 (第三次舞浜さん事件と名付けよう)であれが本性だと知れ渡っているかもしれない。日頃から腹黒いことまで伝わっているかどうかは微妙だけれど。

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