第三幕、御三家の矜持
苦し紛れの理由は、苦々し気な松隆くんの声に否定された。そうだ、松隆くんは夏休みに桜坂家まで来ていた──松隆くんのお母さんと一緒に。父親同士が旧友だというのなら、母親同士も名前くらいは知っているはずだ。
あの人はどうだろう……。“松隆さんの奥さんが”なんて口にしていたけれど、それ自体はどうとでもとれる呼び方だ。全てを知っていると断定はできない。
……やはり何よりも奇妙なのは、松隆くんのお父さんだ。自分の息子が旧友の家まで行ったというのに、それを知らずにいるはずがない。松隆くんのお母さんだって、わざわざ息子に謝罪させておきながら、それを夫に伝えないはずもない。
つまり、私のお父さんも松隆くんのお父さんも、互いの繋がりを隠したかったと考えるのが自然だ。
「あのっ!」
奇妙な疑念に染まった空気の中、藤木さんの声が私達の思考を遮ろうとする。
「その、菊池くんを脅したのが誰かとかは本当に知らないんです! 知ってるのは、菊池くんには幕張匠って名前を出せばいいってことだけで!」
大した情報にもならないのに、そんなことを言うことに何の意味があるのだろう。ここまできて、まだ少しでも自分の責任を軽くしたいのだろうか。呆れて物も言えず、ただ目を伏せた。ついでに、松隆くんの名前が出てもこれしか言わないってことは、本当に藤木さんは何も知らないんだろう。蝶乃さんに至っては「それ誰?」なんて顔までしている。
「……幕張匠の名前を出せばいいって藤木さんに教えたのは誰なの?」
「……桜坂さんの知らない人だし」
「それは私が判断する」
往生際悪く足掻こうとする藤木さんを睨めば、松隆くんの父親という存在の手前黙秘することはできず、藤木さんは苦々し気な表情でそっと口を開いた。
「鶴羽って人」
──そして、その口から出た名前に目を見開く。
「鶴羽樹って、言ってた」
その、名前は、“桜坂亜季が幕張匠の家に出入りしている”と松隆くんに教えた人のもの。
「鶴羽樹だと?」
月影くんも驚いた声を上げる。
あの人はどうだろう……。“松隆さんの奥さんが”なんて口にしていたけれど、それ自体はどうとでもとれる呼び方だ。全てを知っていると断定はできない。
……やはり何よりも奇妙なのは、松隆くんのお父さんだ。自分の息子が旧友の家まで行ったというのに、それを知らずにいるはずがない。松隆くんのお母さんだって、わざわざ息子に謝罪させておきながら、それを夫に伝えないはずもない。
つまり、私のお父さんも松隆くんのお父さんも、互いの繋がりを隠したかったと考えるのが自然だ。
「あのっ!」
奇妙な疑念に染まった空気の中、藤木さんの声が私達の思考を遮ろうとする。
「その、菊池くんを脅したのが誰かとかは本当に知らないんです! 知ってるのは、菊池くんには幕張匠って名前を出せばいいってことだけで!」
大した情報にもならないのに、そんなことを言うことに何の意味があるのだろう。ここまできて、まだ少しでも自分の責任を軽くしたいのだろうか。呆れて物も言えず、ただ目を伏せた。ついでに、松隆くんの名前が出てもこれしか言わないってことは、本当に藤木さんは何も知らないんだろう。蝶乃さんに至っては「それ誰?」なんて顔までしている。
「……幕張匠の名前を出せばいいって藤木さんに教えたのは誰なの?」
「……桜坂さんの知らない人だし」
「それは私が判断する」
往生際悪く足掻こうとする藤木さんを睨めば、松隆くんの父親という存在の手前黙秘することはできず、藤木さんは苦々し気な表情でそっと口を開いた。
「鶴羽って人」
──そして、その口から出た名前に目を見開く。
「鶴羽樹って、言ってた」
その、名前は、“桜坂亜季が幕張匠の家に出入りしている”と松隆くんに教えた人のもの。
「鶴羽樹だと?」
月影くんも驚いた声を上げる。