第三幕、御三家の矜持
 当然だ、その人は御三家と中学校が同じだったというのだから。そして彼は、私の旧姓が幕張だと──私自身が幕張匠であると──知っている。それなのにその事実を松隆くんにも藤木さんにも暴露することはなく、敢えて雅を脅すネタとして使った。

 ゾッと、背筋が凍る。鶴羽樹とは、一体誰。


「なぜ鶴羽の名前がここで出てくる」

「……知ってるの?」

「知ってるも何も、俺達とは中学の同級生だ。確かいまは(しげ)高にいるはず」

「その鶴羽の名前をここで聞くことになるとは思わなかったがな。連絡は取っているか?」

「あぁ、なんなら四月に連絡を取ったばっかり……」


 月影くんと話していた松隆くんは口を噤んだ。思い出したんだろう、その鶴羽くんから聞いた私の話を。そうだとしても、不幸中の幸いなのは、私が幕張匠の家に出入りしていたことを否定せず、雅が嘘を吐いてくれたお陰で、あくまでも松隆くんの中では私が幕張匠を好きだったことになっているだけだということだ。私自身が幕張匠だったことは、まだバレていない。


「どうした、総」

「……いや。で、藤木、お前はどうして樹を知ってる?」

「祥平の友達で……」

「……そう。とりあえず、樹には会う必要があるね」

「そうだな。四月時点とは異なり、俺達に会うかどうかは疑問もあるところだが、その点はどうにかするしかあるまい」


 私と幕張匠の関係に間違いなく気づいているはずの鶴羽くん。その鶴羽くんと御三家は中学の同級生。その御三家のうち松隆くんのお父さんは私のお父さんの旧友。その父親二人はお互いが旧友であることを隠していた。

 ぎゅ、と拳を力なく握った。松隆くんと月影くんの遣り取りが遠くに聞こえてしまうほどの不安と──諦念を抱いた。松隆くんと桐椰くんが私と幕張匠の関係に気づくときが、遅かれ早かれやってくることは分かっていた。時々冷静さを取り戻しながらも、どうしても御三家の傍にいたがった私がいい加減御三家の傍を離れるべきだと言われている気がした。


「……遼? どうした?」

「……どうもしない 」

「そう。で、藤木、今まで話した以上に俺達に話しておくことはあるか?」

「……もう何も」

「そう。じゃ、これは俺達からの餞別」


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