第三幕、御三家の矜持
 そのまま藤木さんは本格的に泣きだした。その様子を心配したような態度を示すのは、あろうことか蝶乃さん一人で、鹿島くんは相変わらず何を考えているのか分からない表情のまま見つめているだけだし、御三家の視線は冷ややかだった。それどころか松隆くんはパンフレットから手を放し、バサバサバサッ、とそれは床に無残に散らばる。


「俺達が言いたいことはこれだけだ」


 月影くんが軽く目を伏せて踵を返したのを合図にしたように、松隆くんもその台詞を最後に歩き出す。ただ、桐椰くんだけが静かに口を開く。


「藤木」


 藤木さんは泣くばかりだった。それは名前を呼ばれても顔を上げる余裕がないからかもしれないし、そう思わせるための演技かもしれない。


「俺は、こんな最低なことするヤツは好きになんねぇよ」


 それでも、放たれたのは、藤木さんの恋心を握り潰そうとせんがばかりに冷酷な返事だった。


「亜季」


 その光景を偽善者よろしく呆然と眺めていた私を、桐椰くんの声が動かす。


「帰るぞ。送る」


 あまり私の名前を呼ばない桐椰くんがここで敢えて名前を呼んだ、その理由は分からなかった。
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