第三幕、御三家の矜持

(四)貴方が消えた日

 生徒会の新役員が決まって以来、校内の様子は一変した。

 鹿島くんが指名役員以下の制度を本当に失くした結果、生徒内でのヒエラルキー制度が緩くなった。もちろん、それは一朝一夕になくなるものではない。一般生徒はやっぱり腰が低いし、なんとなく元生徒会役員には逆らえない空気がある。それでも表立って一般生徒が虐げられる様子を見かけなくなったのは、生徒会至上主義の中でトップに君臨していた鹿島くんがそれを宣言したからだろう。きっと桐椰くんが生徒会長になって同じことを言っても効果はなかったに違いない。

 ただ、御三家の桐椰くんが生徒会副会長に就任したことには、やっぱり別の効果があった。


「んー、だって桐椰くんが副会長ってことはー、御三家が生徒会の権力をけっこー握っちゃってるってことでしょー?」


 席替えの結果、私の隣にやってきた飯田さんは髪をくるくると指先で弄びながら言う。その毛先は今はピンク色だ。


「あたし、元々生徒会権力どかどーでもいーしさー、松隆くんのファンだしさー、桐椰くんに反抗して松隆くんに反抗してることになりたくないんだよねー」


 その意見は大抵の元生徒会役員の心を代弁していた。桐椰くん推しの人は言わずもがな、松隆くんか月影くんのファンの人も希望役員以下廃止に反対はしなかった。癪だけれど、桐椰くんのお陰で鹿島くんの政策は予想以上に効果を上げたようだ。


「まーでも、虐めは学校生活の付属品みたいなもんだしー、誰が虐められるかが変わっただけといえばそーかもしれないねー」


 飯田さんの視線が不意に廊下に向いたので、その先を追いかける。タイミングよく、蝶乃さんが通り過ぎたところだった。きっと蝶乃さんのクラスは秋のスポーツ大会の話し合いが早く終わったんだろう。因みに、四組では卓球の席の取り合いで男子が揉めている。
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