第三幕、御三家の矜持
『桐椰くんが花高志望って知ったから入ったのに、桐椰くんにフラれたら意味ない』

 だったら中学生のときに告白すればよかったじゃん、と思ったけれど何も言わずにおいた。

『こんなこと言ったら、どうせ御三家にチクるんだろうけど──あたしは本当に、桜坂さんは狡いと思う』

 そしてやっぱり、最終的にはそこに行きついた。

『あの御三家が……誰のことも好きにならなさそうな三人が、ここまでして桜坂さんを守ってるのに、自分は何も特別じゃないみたいな顔してる桜坂さんは狡い』

 ぼそぼそと、今にも泣きそうな顔をしながらそう罵って、藤木さんは私の前を立ち去った。

 結局雅に謝ってはくれなかったし、私にもお説教をしただけだった。その上、話を総合すると「桐椰くんにフラれて悲しいので転校します」になっていて複雑な気持ちになった。

 中間試験を控えていたこともあり、生徒会選挙騒動はそんな感じで終了した。ただ、色々と残っていた疑問はあまり解消されなかった。

 解消された唯一は、蝶乃さんと藤木さんの会話を録音したのが有希恵だったということだけだ。


「別に、ただの取引だよ」


 スポーツ大会の話し合いを終えた後の第六西で、松隆くんは私に目も向けずに説明した。


「鹿島が指名役員以下をなくす可能性も、遼が副会長に立候補することも、梅宮には話してあった。だから蝶乃の無名役員として守られてる立場も、生徒会選挙が終わりさえすればなくなるんだってね。だからもし、俺達に協力してあの二人から情報を引き出すことができたら、何かあれば俺達が助けてやるって約束した。一つの情報につき一回だけだけどね」


 それはそれで御三家が面倒ごとを抱えてしまうことになるのでは、と思ったけれど、最後に付け加えられた一言によればそれは杞憂に過ぎないだろう。元々、御三家が欲しがってた情報はあの二人が雅の事件に関わってたことだけだろうし、情報の単位なんて松隆くんの屁理屈があれば大抵の量は“一つ”とカウントできるだろうし。

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