第三幕、御三家の矜持
 ついでに、その取引は御三家と出会ったばかりの私と御三家がした取引と似たような内容で、あの頃の私は本当に御三家にとってどうでもいい存在だったんだと思い知らされた。ただ違うのは、有希恵は一回だけ御三家に助けてもらえる以上のことはないということだ。私は行動を共にすることを認められていたし、文化祭終了後も守られることが約束されたし、現に守ってもらってるし、私と御三家の間にギブアンドテイクなんてないに等しい状態だ。選挙の日、有希恵が私に悪態をついた理由も頷けないことはない。自分は本当に御三家と取引をしてそれで終わるのに、私はのほほんと御三家に守ってもらえているのだから。


「まぁ梅宮が噛んでることも疑ってはいたけどね」

「……そういえば、引き込みがどうとかって」

「うん、だから藤木の口から梅宮の名前が出てくるかは気にしてた。ただ、そうだとしても最後の最後に一人道連れにしてやろうって魂胆は否定できないからね、録音された会話にないことを梅宮が知ってたら黒で確定って程度に考えてたけど、結局そんなことはなかったし。この件を知ってるのは、あとは樹だけだな……」


 松隆くんは苛立たし気に額を押さえた。御三家の同級生だというのに、鶴羽くんには連絡がつかなくなっているという。当時知っていたはずの進学先にも存在せず、住所も変わり、居場所を調べようにもなぜか見つからない。


「一応、色々使いながら調べてるから、見つからないことはないと思う……時間がかかってるだけだ。でも時間がかかってるのもなんでなのか……」


 お陰で、雅の事件は未解決のままだ。


「じゃ、桜坂、そろそろ帰ろうか」

「……そうだね」


 第六西には私と松隆くんしかいなかった。桐椰くんは生徒会の引継ぎで慌ただしいし、月影くんが「いい加減勉強するべき」なんて受験生みたいな理由をつけて第六西にあまりいなくなったせいだ。どうせいつも勉強してるくせにと思ったけれど、松隆くん曰く「駿哉は受験に要らない勉強してることも多いから」、本格的な受験勉強はこれから始めるようだ。

 お陰で最近松隆くんといることが多くなった。十月になって少し夕方は肌寒くなり、衣替えもあって私と松隆くんと月影くんはジャケットを羽織るようになった。桐椰くんは相変わらずパーカーを羽織っている。


「松隆くん、もう中間の結果返ってきた?」

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