第三幕、御三家の矜持
 そのとき、パッと机の上に置いてあるスマホ画面が点灯する。桐椰くんのスマホだ。なんならそれはLIMEの通知だったのだけれど、私と松隆くんが反射的に視線を向けたときには桐椰くんがスマホを手に取っていた。随分と素早い。ただ既読を付ける様子はなく、じっと画面を見ている。


「どうした?」

「……いや。悪い、今日も用事あるから、コイツ送って」


 そのままスマホをポケットにしまうと桐椰くんは立ち上がる。桐椰くんならきちんと了承を取るまで待ってもおかしくないのに、松隆くんが返事をする前にそさくさと教室を出て行ってしまった。用事があると一言断わるだけで先に帰ってしまうのは昨日と同じなのだけれど、松隆くんの前でまで同じことをするとは思っていなかった。さすがの松隆くんもきょとんと珍しい表情で桐椰くんが出て行った扉を見ていた。


「……また遼と何かあったの、桜坂」

「いえ何も……」


 松隆くんには、優実の話はしていない。伝え方が分からないからだ。夏休みが明けて以来、松隆くんが私への告白をどう扱うつもりなのかというのもあるのだけれど、その扱いがどうであれ、松隆くんが暫定的にライバルと見做(みな)していた相手がライバルじゃなくなったようです、なんて告白された私が伝えてどうするんだ、って話だ。

 流石の松隆くんも千里眼を持ってるわけじゃないからそんなことまでお見通しなわけじゃない。お陰で「ふーん」と腕を組みながら考え込む素振りを見せるだけだ。


「喧嘩してるわけじゃないんでしょ? よくもまあそう頻繁に関係をこじらせるもんだね」

「こじらせたくてこじらせてるわけじゃないんですけどね」

「当たり前だろ。ここが気まずくならないなら好きにしてくれていいけど」


 基本的に興味がないように聞こえるのは気のせいだろうか……。夏休みあんなに睨みあっておいて今は興味なしだというのなら、私と松隆くんの今の関係は一体……。訊きたいけど訊けない。ここはもうツッキーに頼るしかない。でも多分ツッキーは「知らん」の一言で終わらせるだろうな。もしくは「どうしてあんなに趣味が悪いんだ」と嘆くか。

 丁度そのとき扉が開いて、噂をすればなんとやらというか、月影くんが現れる。いつもの仏頂面だ。松隆くんが短く挨拶すれば月影くんも短く返す。


「遼は?」

「用事があるとかで帰ったよ」

「そうか」
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