第三幕、御三家の矜持
「そうですね今更ですね。私は松隆くんに告白された後も図々しく送ってもらってましたし、桐椰くんと喧嘩した日ですら無言でもいいからとにかく送ってもらってましたね」

「俺はそこまで言っていないが、今までと何が変わるわけでもないのに敢えてここで俺を選ぶ必要はあるまい。総も遼も大して気にしていないだろうから送ってもらえ、以上」

「ちょ、ちょ、待って、ストップ」


 話を切り上げて席に戻ろうとする月影くんのジャケットの裾を掴んで慌てて引き留める。またもや一層迷惑そうな顔が振り向いた。この人、本当に私のこと友達だと思ってるのかな。雅の事件以来見せてくれ始めたデレはどこに行ったのかな。


「松隆くんがもういいって言い始めてから有耶無耶になってたけど……、昨日の松隆くんおかしかったの! お父さん同士の話題のせいもあるとは思うんだけど……」

「押して駄目なら引いてみろなどといった総の策略に君が見事嵌ったというわけだな」

「そうなのかどうかは知らないけど、そうだとしたら問題は深刻だし、第一そのどうでもよさそうな目は何なんですか!」


 本当に、本当に全く相談に乗ってくれないのかこの人! 返事を強請るように体を揺さぶろうものなら絶対零度の目で睨まれる。


「ツッキー……」

「他人の恋路に首を突っ込むほど俺はデリカシーに欠けていないし、そもそも興味自体ない」

「だからねぇツッキー! 私は助けてって言ってるんですよ! だってこのままじゃ、」

「“当初の契約通りとはいえ、総と遼の気持ちが変わった今となってはあまりに都合が良すぎる?”」


 図星をさされて、ぐっと押し黙る。確かに先程私自身が口に出したことだったけれど、それにしたってその心情は口にするにはあまりに汚くて黙っていたのに。私の狡いところを的確についてくる。


「……その、通りですが……」

「何度も言わせるな、それは君を仲間に引き入れた際に対価としてこちらが──総と遼が提供したものだ。大体、総と遼は君を送り届けているほうが安心すると感じているんだろう。寧ろ送ってもらっておいたほうがあの二人には迷惑はかからん」

「……それっぽいことを言ってくれるじゃないですか」


 こういうところが月影くんの精一杯のデレなんだろうけれど、今は求めていなかった。……求めてるデレは、そんなものじゃない。


< 213 / 395 >

この作品をシェア

pagetop