第三幕、御三家の矜持

「告白され、それを断ることは確かに簡単なことではないし、今後の関係も変えてしまうものだから、されないに越したことはないと考えるのも理解できなくはない。だがその点を懸念しているのであれば、これほどあからさまに拒絶反応を示すほうが逆効果だというものだ。違うか」

「……違わない」

「そうだというのなら、どうして」

「…………」


　そんなの、桐椰くんを傷つけるのが怖いからに決まってる。でも、月影くんの指摘は正しすぎて、それを口にすることはできなかった。

　黙り込んでいる私に、月影くんは軽く息を吐き出す。私が答えられないことは最初から分かっていたかのようだ。


「まぁいい。ところで俺も君に用事があった」

「え、用事あるみたいな態度とってなくなかったですか？　え？」


　ツンデレにもほどがあるよ、とちょっとふざけた抗議をしようとして──「菊池のことだ」──雅の名前に口を噤む。登校日とは違って時間稼ぎなどではないのだろう、月影くんは声のトーンを落とす。


「藤木が言っていたことを覚えているか？」

「藤木さんが言ってた雅のことって……幕張匠の名前を出せばいいってこと？」

「そうだ。菊池が幕張の名前で脅されたことは君から聞いていたし、菊池にも度々会っているので確認はしている」


　なんで月影くんと雅がそこまで仲良くしているのかは疑問だったけれど、今は関係のないことだったので話の腰は折らずにおいた。


「ただ、藤木は、幕張匠の名前さえ出せば菊池を恣(ほしいまま)にできると思っていた。だが現実はそうではない、幕張匠の正体告げて初めて菊池を従わせることができる。そして、幕張匠の正体が割れているという事実がもし公にされているのであれば、あの日あの場にいた者が問答無用で君を襲わないわけがない」

「……つまり雅を脅した人はあの場にいた人以外の誰か」

「そういうことだ。そして菊池は自分を脅した相手が分からないと言った。顔は見ていないことはないが、おそらく知らない顔だったと」


　脅した相手が分からないはずがない、と口を挟もうとすれば、そう付け加えられた。


「鶴羽って人の顔写真は？」

「見せたが、鶴羽かどうかは分からなかった。俺が持っている写真も中学生当時のものだからな、髪の色や様子が変わっていれば別人になっていてもおかしくはないんだが」