第三幕、御三家の矜持
「告白の返事、いいですよって言う」

「もう返事はしただろう」

「でもお試しデートもしてるし、付き合うことにしてもおかしくない」

「総と遼はどうなる」

「松隆くんは断ったし桐椰くんには優実がいる」

「そんな話はしていない!」


 そして、声を荒げるのを聞いたのは初めてだった。

 驚いて私が目を見開き、私達の会話を気にも留めていなかった周囲の人達が怪訝そうに振り返り、月影くんははっと我に返る。次いでばつが悪そうに少し視線を泳がせた後、徐に私の腕を掴んだ。


「なに、ツッキー」

「ちょっと来い」


 その時、教室内にいる鳥澤くんと目が合った。そうだしまった、鳥澤くんは一組だった──なんてことを考えているうちに月影くんに腕を引きずられるようにして教室の前からは立ち去ることになった。「鳥澤くんと付き合う」という言葉は聞かれていなかったかもしれないけれど、月影くんが女子と喋るなんて珍しいからだろう、鳥澤くんは難しい表情をしていた。なんと形容すればいいかは分からないけれど、少なくともよくは思わないだろう。まさか月影くんがこんなことをするとは思ってなかったしな……。

 驚いていて私達を見ていたのは廊下にいる人達も一緒だったけれど、月影くんは気に留めることもなくずんずん歩き、人がいない空き教室にまでやってきて漸く私を振り向いた。


「どういう心境の変化だ」

「別に、私の心境は何も変化してませんが」

「その拗ねたような喋り方をやめろ」


 腕を組んで私を見下ろす、月影くんの目と声はいつも以上に冷ややかだ。幼馴染二人が絡んでいるからだろうか。


「いい加減に話したらどうだ」

「何を」

「体育祭のときからおかしい。なぜそこまでして遼を拒絶する」

「拒絶なんてしてないよ。桐椰くんの初恋は優実だし、優実と一緒になったほうが上手くいくと思うから推してあげてるだけで」

「遼にその気があるならそれでいいが、その気もないのに無理やり宛がうのは見当違いのお節介だと思うが?」


 そんなの、言われなくても分かってる。


「……君が鳥澤と付き合うと言っても、それは俺が口を出すことではない。だが総と遼の気持ちを踏みにじるようなつもりなら話は別だ」

「……踏みにじってない」

「それなら、なぜ鳥澤と付き合うのか答えろ」

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