第三幕、御三家の矜持
「そしたら、松隆くんと桐椰くんは私を送らなくて済むから」

「鳥澤が白だとまだ言い切れないと言ったはずだ、何度も何度も言わせるな」

「でも二人を振り回すよりいいでしょ」


 自棄(やけ)になって、つい言い方が乱暴になる。


「なんで告白されて振った後も一緒に帰ってるの。おかしいじゃん、私」

「それならなぜ夏休み明けに言わなかった」

「松隆くんが気にするなって言ったから……」

「それは今も言われているだろう」

「でも昨日帰った時に様子が違ったって言ったじゃん! お父さん同士の話も出てきたし、これ以上……」


 これ以上、御三家と私との間に関係を作りたくなかった。

 そんなことを月影くんの目の前では言えず、ぎゅっと唇を引き結ぶ。


「……とにかく、私、鳥澤くんと付き合うから。今日から鳥澤くんと帰る」

「……言っておくが、そのほうが総と遼には迷惑だ」

「それでも、変に関係が変わっちゃうよりずっといい」


 月影くんとの話はどうどうめぐりだ。相談に来た私が間違ってたんだろうか。……そんな偉そうなことを言うべきじゃない、か。多分私はどこかで、私に都合のいい答えを期待してたんだろう。


「……帰るね。鳥澤くん、部活だろうし」


 踵を返そうとすると、月影くんは徐にスマホを取り出す。


「……なに?」

「菊池を呼び出す」

「雅を?」


 雅がいれば私を説得できるとでも思っているのだろうか。大体、連絡先を交換してるなんて月影くんと雅は一体……。


「どうしても遼と総が気に食わないなら菊池に送ってもらえ。バスケ部の鳥澤よりは頼りになるだろう」

「……でも私と歩いてるところを見られたら雅のほうが危ない」

「幕張匠の相棒だったとバレた後の菊池が襲われた話は聞いていない。鳥澤に任せるより余程安心だ」

「……松隆くんは嫌な顔するんじゃない」

「皮肉にも、というべきか、藤木のお陰で多少誤解は解けたようだ」


 ……松隆くんは、雅は口を割らずに死ぬべきだったと罵った──雅が脅されていたと知らなかったから。藤木さんの口からは幕張匠の名前しか出てこなかったけれど、雅は私を庇ったからこそあんな目に遭ったんだと分かってくれたんだろうか。


「だから菊池と帰れ。鳥澤と付き合うのはやめろ」

「……なんで? 私が鳥澤くんと付き合えば、」

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