第三幕、御三家の矜持

「ところで、鳥澤が桜坂に告白したらしいんだけど」

「は?」


 また月影くんの口から素っ頓狂な声が出た。本当に月影くんは私の女性としての魅力が毛頭理解できない姿勢を崩さないな……。なんならじろじろと怪訝な顔で私を見つめるときた。


「なんだそれは。鳥澤の趣味が悪いとは初耳だが?」

「だからそれ私に失礼じゃない?」

「俺が知りたいのは鳥澤ってそういうヤツなの、ってことなんだけどね。鳥澤と桜坂に接点はないんだろ?」

「ないですね」

「危ない橋を渡りたい年頃なんじゃないか?」

「御三家の仲間に手を出したときの反応が知りたいってことですか? それ鳥澤くんが本気だとしたら失礼極まりないじゃないですか!」

「そのくらい妙な話ではあるよね」


 ちょっとリーダー!と叫びたいところを慌てて(こら)えた。本当に松隆くんはどういうつもりなんだ。その考えが分からない以上下手に口を挟むことはできずに私は黙る。桐椰くんの代わりにソファに座った月影くんも腕を組んだ。


「接点も何もないのに何をどうすれば告白に踏み切るほどの感情を抱くのだろうな。一目惚れするような絶世の美女ならまた話は別かもしれないが、桜坂はそうではないからな」

「……ツッキー」

「なんだ。君にその自信があるなら一向に構わないが、誰一人同意してくれる者がいないのも寂しいと思わないのか?」

「そこまで言う!?」

「どんな莫迦でも勝率ゼロの告白するわけがないと思うんだけどね。特に俺が知ってる鳥澤はそういうヤツじゃないし」


 月影くんの罵倒を何事もなかったかのようにスルーして、松隆くんは首を捻り続ける。一方で月影くんは頷いて同意した。


「仮に桜坂に好意を持ったとしても告白をすることとはまた話が違うからな。桜坂に認識もされていない段階でなぜそんな行動に踏み切ったか」

「視界に入るきっかけがほしかったとか? それでもまだもう少しあるよね」

「罠だと思ってくれと言っているようなものだからな。ただの莫迦である可能性もなきにしもあらず、といったところではあるが」


 散々な言われようだ。第六校舎前で松隆くんと相対したときのことといい、本当に本当に鳥澤くんが不憫だ。もしかしなくても私に関わったせいで奇妙な不幸に襲われてしまう可能性がそれこそなきにしもあらずだ。


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