第三幕、御三家の矜持
 雅は幕張亜季も幕張匠も知っているから、桜坂亜季を見られることには抵抗感があった。でももう、雅に隠さなくてもいいんじゃないかと漠然と思ってしまった。なんとなくだけれど、雅には知られていないことまで見透かされているような気がするから。


「亜季がいいならそれでいいけどさ」

「……それより、雅は随分遠回りじゃない? 坂守高に通ってるってことは家遠いんじゃないの?」

「まーね、でも別に大したことねーよ」

「……ていうか、いま誰と住んでるの?」

「ん、祖父(じい)ちゃん。母方の」


 雅の口から出るまで聞いていいものか悩ましいことだったけれど、いざ口にすれば雅はあっさりと答えた。なんなら「最初は結構鬱陶しいクソジジイでさぁ」なんて続ける。


「帰ってきてもなーんにも言わねーくせに、二、三日帰らなかったらどこ行ってたのか聞こうとするわけ。うるせーなってあしらってたら怒るし」

「大体の人はうるさいってあしらわれたら怒ると思うよ」

「てか人間不信気味だったんだよね、あのジーサン」


 白い目を向けたけれど、雅はスルーして続ける。


「理由は忘れたけどスゲー金持ってて、俺の母親とかそれ以外の子供とかその結婚相手とかに散々たかられたとかなんとか。んで最後は縁切ったヤツの息子を預けられるわけじゃん? たまったもんじゃねーみたいな?」


 雅は、小学生のときまでは両親と三人で暮らしていたらしい。でもお母さんの浮気癖、お父さんの酒癖の悪さがそれぞれ治らず、お父さんがお酒で失敗して仕事を辞めたのを一つのきっかけにして、お母さんが出て行った。お父さんは以来一層お酒に溺れるようになって、雅に振るってた暴力も悪化。雅曰く、お父さんの暴力絶頂期が私と会った頃で、私が止めに入った現場での出来事も日常茶飯事だったとか。そして、そんなお父さんの両親は雅が小学生のときに他界して、お母さんは両親に縁を切られていたらしい。


「結局父親がどーなったのかは知らないけどさー、難しい話で俺にはよく分かんなかったし。結構無理矢理あのジーサン見つけて押し付けたらしいってのは聞いたんだけど」

「……そうだったんだ」

「でもそのジーサンがさぁ、俺が花札と囲碁できるって言ったら急に優しくなりやがったの!」


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