第三幕、御三家の矜持
 松隆くんと一緒は気まずい、桐椰くんと一緒も気まずい、それなら雅と一緒は? ──なんて疑問が、頭の中でぐるぐる回っている。雅とは友達の時間が長かったから感じないだけで、松隆くんと状況に大差はない。

 なんだか自分が悪女に思えてきた。いや、実際悪女なのかな。


「あー、あと、言おうと思ってたことあった。月影には言ってない、つか俺もちょっと忘れかけてたんだけど」

「ん、なに?」

「中学のときだったから覚えてないかもしれないんだけどさー」


 雅自身も記憶を辿るのが難しいとでもいうように、眉間に皺を寄せて難しい顔をした。


「ゲーセンあったじゃん、名前忘れちゃったけど、橋渡ったあたりの」

「アトマス?」

「そうそう、それ。ガラ悪いの多いから行くなよーって担任とかがよく言ってて、行ったらまぁカツアゲされても文句言えなくね、みたいなとこ」

「うん、分かる分かる」


 記憶の中にある、ちょっと古びたローカルな遊び場のことを思い出しながら頷く。内装も設備も古びていて、いつ潰れるんだろうとあの時から思っていたけど、潰れたらしい。利用者が少ないのをいいことに、どちらかというとゲームをするためではなく不良がたむろするためにあるような場所だった。


「そこでさぁ、腕折った相手のこと覚えてる?」



**



「なんで菊池が桜坂送ってんの?」


 なぜか、度々俺が責められる。朝、登校を面倒臭がる総と、始業五分前の校門をのんびり通った。予鈴も鳴った後は生徒指導の教員ですら職員室に戻っていて、頭を下げる相手は警備員しかいなかった。


「桜坂本人の強い希望ゆえだが」

「それは聞いたよ。頭丸めたって言っても菊池が菊池であることには変わりないだろ。幕張の相棒ってバレてるし、襲われたらどうするの」

「そこまで言うなら菊池と桜坂の尾行をすればいい」

「本気で言ってる、それ」


 もちろん冗談だ。こちらを睨み付けてくる総の顔には「俺は真面目に聞いてるんだけど」と書いてある。お前のせいでもある、とは言わずにおいた。


「俺としても、こうも毎日同じ問いかけをされては返事に窮するものがあってな」

「窮してはないだろ。大体、この質問は二日ぶりだよ」

「毎日と大差ないだろう」

「全然違う」

「そうか」


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