第三幕、御三家の矜持
「……なんか聞いてごめん」


 ややあって、雅が小さな声で謝った。


「別にいいよ、本当のことだし」

「でもさー、俺だったら絶対それ聞かれたくないし。なんか普通に親いて育ててもらってる家のヤツのこと妬ましくなんない?」


 御三家とか御三家とか御三家とかさ、と雅は冗談っぽく口にする。思わず笑ったけれど、確かにあの三人はそうかもしれない。桐椰くんはお父さんがいないけれど、全力で愛情を注ぐ彼方がいるし、桐椰くんを見れば穏やかな家庭で育ったことは分かる。月影くんはファザコンだし……。そこまで考えたところで、松隆くんのお家事情はあまり知らないことに気付いた。ただ、なんとなく、お手伝いさんがいるほど広いあのお屋敷に、ぽつんと松隆くんが一人いる姿は容易に想像できた。


「妬ましくならないって言ったら嘘かもしれないけど……別に、そこまで他人に興味ないし。他人は他人かな」

「ふーん。亜季って昔からそういうとこあるよな。なんつーか、他人に興味ないみたいな感じ?」

「私が言った台詞まんまじゃん」


 ホットコーヒーを口に運んだ後、ぼんやりその湯気を見つめる。いつの間に迷わず温かい飲み物を頼む季節になったんだろう。教室内に見る色も白や青よりグレーが多くなった。桐椰くんは紺色のパーカーを羽織ってお昼寝をするようになったし、松隆くんと月影くんはセーターを着るようになった。それでも、私と御三家は、お互いの半年も知らない。

 サンドイッチを食べた後、暫くのんびりとコーヒーを飲めば、時刻は午後一時半。


「……戻る? 墓」

「そうだね」


 お墓に戻ってお花を回収するには少し早いけれど、丁度いい時間まで雅を付き合わせるのも悪い。先に帰っていいよと言っても、どうせ雅は一緒に来てくれるんだろうし。

 今から駅まで歩いて丁度いい時間の電車があるだろうかと、スマホを開いて──思わず目を点にしてしまった。桐椰くんからの着信が十件近く入っている。


「……なにこれ」

「んぁ」


 首を傾げている私の目の前で雅も妙な声を発した。私がスマホをいじりだしたので手持無沙汰に雅もスマホを見ていたらしい。じっと見つめていると、スマホ画面を私に見せる。


「月影からLIME来てた。亜季の居場所知らないかーって」


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