第三幕、御三家の矜持
「ま、そういうわけだから、鳥澤のこと適当に見ておいてくれる? 一応手を出さないように牽制はしておいたけど」
あれ牽制だったんだ。どう見ても脅迫にしか見えなかったけど牽制だったんだ。どうやら松隆くんの常識と世間の常識とには齟齬があるか、松隆くんは自分の威圧感を分かっていないかのどちらかなようだ。月影くんは「確かに罠である蓋然性のほうが高いからな」と相変わらず失礼な評価を下したままだった。
さて、と松隆くんは立ち上がる。
「いつもより早いけど、今日は俺も用事あるから。帰るよ、桜坂」
「はーい」
「俺は少し残る。じゃあな」
「また明日」
「じゃーね、つっきー」
今日はニックネームを注意されることはなかった。月影くんは軽く手を挙げて答えると、パソコンの置いてある机に向かっていた。パソコンで作業することがあるのだろうか。首を捻りながら松隆くんに続いて校舎を出ると、明日も暑くなりそうな綺麗な夕焼けが校舎間の庭を照り付けている。
「うわー……やだな、体育祭……日焼けする……」
「気を付けないと吉野に怒られるよ」
「そういえば学校での私の有様を告げ口したのは松隆くんでしたか?」
「俺以外に誰が」
ふん、と松隆くんは小馬鹿にしたように笑った。本当にこの人私のこと好きなのかなって疑いたくなるほど莫迦にした表情だ。今までの言動から気持ちを疑う余地などないはずなのにそれを全て覆すほどの笑い方、さすがリーダーとしか言いようがない。ぐっと悔しさに唇を引き結んでいると、揶揄われたのか、松隆くんはまた可笑しそうに笑っている。このリーダーめ……。
「ところで桜坂、鳥澤に連絡先訊かれてなかった?」
「あー、うん……。教えてほしいって言われたから」
ほらやっぱり松隆くんに尋問される羽目になっちゃったじゃないか……。よく知りもしない鳥澤くんを心の中で恨んだ。隣を歩く松隆くんが何かを疑うように目を細めるのが分かる。
「ろくに話したこともないからこれから仲良くなりましょうって口実?」
「あの告白が本当ならまぁそうだと思います……」
「そこなんだよね。この状況、どう考えても──十中八九罠だと断定していいとは思うんだけど」
「…………」
あれ牽制だったんだ。どう見ても脅迫にしか見えなかったけど牽制だったんだ。どうやら松隆くんの常識と世間の常識とには齟齬があるか、松隆くんは自分の威圧感を分かっていないかのどちらかなようだ。月影くんは「確かに罠である蓋然性のほうが高いからな」と相変わらず失礼な評価を下したままだった。
さて、と松隆くんは立ち上がる。
「いつもより早いけど、今日は俺も用事あるから。帰るよ、桜坂」
「はーい」
「俺は少し残る。じゃあな」
「また明日」
「じゃーね、つっきー」
今日はニックネームを注意されることはなかった。月影くんは軽く手を挙げて答えると、パソコンの置いてある机に向かっていた。パソコンで作業することがあるのだろうか。首を捻りながら松隆くんに続いて校舎を出ると、明日も暑くなりそうな綺麗な夕焼けが校舎間の庭を照り付けている。
「うわー……やだな、体育祭……日焼けする……」
「気を付けないと吉野に怒られるよ」
「そういえば学校での私の有様を告げ口したのは松隆くんでしたか?」
「俺以外に誰が」
ふん、と松隆くんは小馬鹿にしたように笑った。本当にこの人私のこと好きなのかなって疑いたくなるほど莫迦にした表情だ。今までの言動から気持ちを疑う余地などないはずなのにそれを全て覆すほどの笑い方、さすがリーダーとしか言いようがない。ぐっと悔しさに唇を引き結んでいると、揶揄われたのか、松隆くんはまた可笑しそうに笑っている。このリーダーめ……。
「ところで桜坂、鳥澤に連絡先訊かれてなかった?」
「あー、うん……。教えてほしいって言われたから」
ほらやっぱり松隆くんに尋問される羽目になっちゃったじゃないか……。よく知りもしない鳥澤くんを心の中で恨んだ。隣を歩く松隆くんが何かを疑うように目を細めるのが分かる。
「ろくに話したこともないからこれから仲良くなりましょうって口実?」
「あの告白が本当ならまぁそうだと思います……」
「そこなんだよね。この状況、どう考えても──十中八九罠だと断定していいとは思うんだけど」
「…………」