第三幕、御三家の矜持
 どうやら随分心配をかけたらしい……。もう二か月近く前の話とはいえ、監禁されて心配かけたこともあったし、さすがに今回は私が悪いかも……。


「……月影、既読つかない」

「……多分授業中かな。私も桐椰くんに連絡しとこ……」


 何も連絡せずに学校を休むのがここまで心配をかけるとは思わなかった。お陰で御三家に隠れて悪いことをしてしまった気分だ。桐椰くんにいそいそと「雅と一緒に出掛けてます、授業終わる頃に電話するね」とメッセージを打って、松隆くんには「出かけてます、ご心配なく」と雅の名前を出さないように連絡して立ち上がる。これは早めに帰宅したほうがよさそうだ。


「雅、行こう」

「いいの? ここで電話かけてけば?」

「授業中だし」


 ただの言い訳だ。本当は、桐椰くんに電話をするのがなんとなく怖かった だけだ。怒られるんだろうかとか、怒られるとしたらなんて言って怒られるんだろうかとか、どんな感じで怒られるんだろうかとか。

 そんな馬鹿げた理由で先延ばしを決めて、雅と一緒にお店を出た。外はやっぱり曇天で、空気が雨の匂いを運んでき始めている。雨が降り始める前に移動しようと駅へ急ぐ。


「やだなー、墓着いたら雨降ってるとかない、これ?」

「有り得るかも。でも傘持ってきたでしょ?」

「え、持ってないけど」

「……天気予報見なかったの?」

「傘持ち歩くのって面倒じゃん?」


 そのために折り畳み傘ってものがあるんじゃん? と言いたかったけれど、そこで雅がカバンも持たずに手ぶらだということに気が付いた。持っているのはポケットの中のお財布だけだ。なるほど確かに折り畳み傘でさえ持ち歩かなければならないらしい。思わず呆れた目を向けてしまった。

 結局、電車に乗っている間に小雨が降り始めた。窓に張り付く斜めの点線に顔をしかめる。でも、この様子なら本降りにはならないだろう。雅は背が高いから一緒に傘に入るのは大変だけど、これくらいなら寧ろ雅は傘を嫌がるかも。


「はー、やだやだ。俺、晴男だと思ってたのにな」

「言ってるじゃん、私が雨女なんだって」

「そうだっけ。でも亜季と出歩くときって大体晴れよりの曇りだった気がするんだよね。俺が勝ってた気がするんだけどなー」


< 230 / 395 >

この作品をシェア

pagetop