第三幕、御三家の矜持
「……そんなことが言いたくて来たの」

「そういうわけじゃないけど、桐椰は今は副会長なんだから。仕事が手につかない状態にしてもらっちゃ困る。俺が絡んでるんじゃないかって疑われもするし」

「……つまり責めてるの、私を」

「馬鹿にしてるだけだよ」


 ふん、と鼻で笑われた。


「散々御三家に構い倒してもらっておきながら、菊池とつるんでたわけだろう? もっと構ってくれと言ってるようなもの、挙句菊池もいるとなれば松隆が苛立つのも無理はない」


 鹿島くんの言う通り、昨日の松隆くんの機嫌は非常に悪かった。ご迷惑をおかけしました、と謝ったときの御三家の反応自体は三者三様で、月影くんは「事前に連絡しろとは言わないが、連絡を確認するくらいしたらどうなんだ」と呆れた様子だったし、桐椰くんは「……危機感持てよ」と短く怒った。松隆くんは無言だった。お陰で逃げるように学校を後にしたし、今日だってまだ桐椰くんとすら話していない。


「……だからって鹿島くんには関係ない話でしょ」

「それはそうかもね。で、その日は母親の墓参りでもしてたのかな?」


 もう鹿島くんが何を知ってても驚かない。顔を見るのも嫌になって、元気に守備をする桐椰くんの姿を見つけ出して、そちらを見つめながら答えた。


「そうですけど」

「御三家に言えないわけだ」

「……で、なんで知ってるの」

「君の両親がいつ離婚して、母親がいつ死んで、なんて、学校に提出している書類を見ればすぐに分かる話だろ」

「提出したのは学校であって鹿島くんじゃないんですけど」

「それは確かに」


 肯定したくせに、鹿島くんが知っている理由を教えてくれる気配はなかった。この人、もう軽いストーカーだな……。そう思うと色々と諦めがついた。


「……用事ないならどこかいってもらってもいい? 私、鹿島くんの顔見るのあんまり好きじゃないんだけど」

「それはお互い様。俺だって君の顔も見たくない」

「顔も見たくないのに会いに来るって何なの、わざわざ自分に試練でも課してるの?」

「まさか、その気があるならもっとマシな手段を選ぶよ」

「だったら何のつもりなの」

「菊池の絡んだ夏の事件、藤木から聞き出した以上の進展はあったのかなと思ってね」


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