第三幕、御三家の矜持
「まさか。二回戦敗退しちゃったから、今から決勝戦見に行くところ」
「あー、そっか、女子が松隆の試合だって騒いでた」
俺が近寄ると殺されちゃうな、という台詞には苦笑い。否めない。
「じゃ、応援行くんだ。いってらっしゃい」
「うん」
ばいばい、と手を振って別れると、元の場所に戻った鳥澤くんが「ちょっとしか喋ってねーじゃん!」「お前そんなんで御三家から奪えんの?」とやっぱり揶揄われていた。お喋りな友達に喋っちゃった鳥澤くん、不憫だな……。折角飯田さんには匿名でラブレターを渡せたというのに。
「なに話してたの」
「うっぎゃ!」
その後ろ姿を見守っているうちに私の背後に忍び寄る影がいたらしい。声で分かった相手は桐椰くんで、試合直後で汗だくだし、体からは熱気が放たれていた。
「いや……別に大したことじゃ……」
「大したことって」
「いや本当に……テニス二回戦敗退しちゃったけど松隆くんの応援行ってきますって……そしたら鳥澤くんは近くにいたらきっと殺されちゃうから行けないなって……だから私だけいってらっしゃいって……」
「ふーん……」
しどろもどろと語れば、桐椰くんは相変わらずなんともいえない、どちらかというと少し不機嫌そうな表情で相槌を打つ。
「……あの、じゃあ私、行くから……」
「……お前、今日の帰りも菊池呼んでんの」
「え、あ、はい」
動揺のあまり敬語になってしまった。
「今日は送る」
「え、いや、だからいいってば……」
「下僕のお前に拒否権あんの」
……なんだと? 思わず顔が歪んだ。友達に昇格したはずなのに、今更下僕だと? しかも昇格以来は言われていなかったのに、今更人権を剥奪する勢いでくるだと?
「……私、もう友達だから下僕じゃないです」
「そうだっけ、忘れた」
「ちょっと桐椰くん!」
「いいからちゃんと待ってろ。勝手に帰ったら怒るからな」
怒るだけなんだ……。やっぱそういうところ可愛いな……。
なんてことを口にはできずに黙っているうちに桐椰くんは立ち去った。なんなんだ桐椰くん……。まさか私と鳥澤くんが話してたから何か勘繰ってるんですか。何か勘繰ったところでどうなんだって話ですけど。
「……もう」
「あー、そっか、女子が松隆の試合だって騒いでた」
俺が近寄ると殺されちゃうな、という台詞には苦笑い。否めない。
「じゃ、応援行くんだ。いってらっしゃい」
「うん」
ばいばい、と手を振って別れると、元の場所に戻った鳥澤くんが「ちょっとしか喋ってねーじゃん!」「お前そんなんで御三家から奪えんの?」とやっぱり揶揄われていた。お喋りな友達に喋っちゃった鳥澤くん、不憫だな……。折角飯田さんには匿名でラブレターを渡せたというのに。
「なに話してたの」
「うっぎゃ!」
その後ろ姿を見守っているうちに私の背後に忍び寄る影がいたらしい。声で分かった相手は桐椰くんで、試合直後で汗だくだし、体からは熱気が放たれていた。
「いや……別に大したことじゃ……」
「大したことって」
「いや本当に……テニス二回戦敗退しちゃったけど松隆くんの応援行ってきますって……そしたら鳥澤くんは近くにいたらきっと殺されちゃうから行けないなって……だから私だけいってらっしゃいって……」
「ふーん……」
しどろもどろと語れば、桐椰くんは相変わらずなんともいえない、どちらかというと少し不機嫌そうな表情で相槌を打つ。
「……あの、じゃあ私、行くから……」
「……お前、今日の帰りも菊池呼んでんの」
「え、あ、はい」
動揺のあまり敬語になってしまった。
「今日は送る」
「え、いや、だからいいってば……」
「下僕のお前に拒否権あんの」
……なんだと? 思わず顔が歪んだ。友達に昇格したはずなのに、今更下僕だと? しかも昇格以来は言われていなかったのに、今更人権を剥奪する勢いでくるだと?
「……私、もう友達だから下僕じゃないです」
「そうだっけ、忘れた」
「ちょっと桐椰くん!」
「いいからちゃんと待ってろ。勝手に帰ったら怒るからな」
怒るだけなんだ……。やっぱそういうところ可愛いな……。
なんてことを口にはできずに黙っているうちに桐椰くんは立ち去った。なんなんだ桐椰くん……。まさか私と鳥澤くんが話してたから何か勘繰ってるんですか。何か勘繰ったところでどうなんだって話ですけど。
「……もう」