第三幕、御三家の矜持
 先程から何度抗議しようと思ったかしれないその評価。確かに罠だと私も思うけれど、他人に言われて「ですよねー」なんて全面的に賛成するかと言われたらそれはまた別の話だ。しかも松隆くんに至っては、鳥澤くんが生徒会と無関係だから「本気で桜坂のこと好きなんじゃないの」との答えを一度は出しておきながらそれを翻したのだから、ぜひその翻意の理由をお尋ねしたい。ただ松隆くんなりに思い悩んではいるらしく、珍しく眉間に皺を寄せて考え込んでいる。


「罠だとしたら分かりやす過ぎるっていうのがどうにも引っかかる。罠に告白を使うのは好意を向けられて油断しているところを狙いたいからだ。桜坂が初対面の相手に告白されて舞い上がる莫迦に見えるとは思えないし」

「言い方はあれですけど私のこと褒めてくれてるってことでいいんですよね?」

「桜坂の見た目は莫迦じゃないって話は前にもしただろ? 本当に鳥澤がただの莫迦なのか……」


 一応一年間同じクラスにいてそこまでの莫迦には思えなかったんだが、と松隆くんは益々険しい表情になる。そこまで真剣に考えてくれていると、私としてももう少し真面目に考えるべきだと思わされるのだけれど、いかんせん私自身鳥澤くんのことは知らないし。連絡先を交換したわけだから、連絡を通じて鳥澤くんを探ることもできないことはないけれど、表情も声音も伏せてできる遣り取りでそう簡単に襤褸(ぼろ)が出るとは思えない。そもそも、もし万が一鳥澤くんが本気なら、やはりそんなことをするのは申し訳ない。

 うーん、と松隆くんと一緒になって首を捻ってしまった。


「何か心当たりないの? 鳥澤に好かれるきっかけ」

「何もないですね。生徒会に虐められ始めたと思ったら御三家の下僕になって、(あやか)りたい女子以外誰も話しかけて来なかったんですよ?」

「鳥澤と接点がないって証明、それだけ聞けば十分なんだよな……。中学時代の知り合いとか?」


 幕張の名が出たわけでもないのに、それを指摘されただけで一瞬息が止まった気がした。気付かれないようにそっと息を吸って、吐いた。


「鳥澤くんの出身って高祢中学なの?」

「さぁ、知らない。それは調べておくか……あの鳥澤が幕張の友達で当時から横恋慕してました、なんてこともなさそうだしね……」


< 24 / 395 >

この作品をシェア

pagetop